この記事の連載

「この家ほかに誰かいるんですか?」

 後ろからついてくるKさんが、なぜかドアを開けたままにしていたのが気になったそうです。

 気を病んで荒れている室内を想像していたMさん。しかし意外にも家の中は綺麗そのもので、室内には誰もいなかったものの、幸せな家庭の残り香のようなものが漂っていました。。

 Kさんは2人に居間の中央にあるコの字型のソファにかけるように言うと、自分はソファ脇のテーブルで持っていた紙袋をヒョイっとひっくり返し、パンパンに詰まった中身を取り出そうと紙袋を揺すりはじめました。

 ガサッ、ガサッ、ガサッ、ガサッ。

「Kさん、この家ほかに誰かいるんですか?」

「はは、そりゃ家内がいるよ。家の内にいるって書くもんなぁ~」

 ドサッ。

 紙袋から振り落とされたのは、ビニールでぐるぐる巻きにされた四つ足のぬいぐるみ。

「さぁて、猫かなぁ、犬かなぁー」

 嬉しそうに梱包を解いているKさんを見て、Mさんは自分たちの手には終えないと直感したそうです。

「もう帰りません? ちょっと、これは……」

  Mさんの小声の訴えを制するように、Hさんは言いました。

「Kさん。前に電話した時から言いたかったんですけど――あなたの奥さん、もう亡くなっているんですよ」
 

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介