この記事の連載

「扉ぁ、閉まっちゃいましたねぇ」

 Kさんはぬいぐるみを開封する手を止め、スッと顔を上に向けました。

「死んでないでしょ」

「いえ、死にました」

「だからぁ、死んでないって」
 

「葬式にも行きました」

「死んでないって言っているだろ。死んでいるわけないじゃん。じゃあ、聞くけどさ、なんでウチの家内が死ぬんだよ? あ? 俺がなんか悪いことでもした? してないよな? だったら――」

「おい!!」

 突然怒鳴り声を上げたHさん。

「あんたのなぁ、そういう態度のせいで首吊ったんだろうがうちの姉貴は……」

「え……首って」

 Mさんが戸惑っていると、Kさんはソファの真上にあった木製の化粧梁に視線を移し、何も言わずにジーッと眺めていました。

 もう嫌だ……帰りたい。こんなところ来なければよかった――Mさんがうつむいてそう心の中で漏らした、その瞬間でした。

 バタン。

「扉ぁ、閉まっちゃいましたねぇ」

 廊下の向こうから玄関の閉まる音と、女のニヤついた声が聞こえたのだそうです。

2025.08.13(水)
文=むくろ幽介