突然解雇されてしまった男が、自分の思い描く幸せを守るためにやがて極端な選択へと追い込まれていく――。パク・チャヌク監督の新作『しあわせな選択』は、誰にとっても他人事ではない不安を背景に、人間の心理を鋭く描き出します。主人公ユ・マンスを演じたイ・ビョンホンさんに、役づくりの過程や監督との再タッグ、共演者であるソン・イェジンさんとの関係、そしてAI時代に感じる思いを語ってもらいました。

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どんな役であっても説得力を持って届けるのが俳優の使命

――自分が大切にしているもののために、思いもよらない行動に突き進んでいくマンスという役をどのように作り上げていったのでしょうか。

 私が演じたマンスは観客からの共感も得る一方で、同時にとても反感を買うような、様々な感情を呼び起こすキャラクターだと思っています。俳優としてどのような人物を演じるとしても、その人物を100%理解して、受け入れることが大切です。そしてその人物像をスクリーンを通して、観客のみなさんに説得力を持ってお届けすること。それこそが俳優の義務であり、仕事だと考えています。

 今回は、マンスがなぜあのような行動をとったのか、彼のバックグラウンドを理解するのにかなりの時間を要しましたし、とても苦労しました。ただ、いつの間にか気持ちが入り込み、「やめればよかったのに!」「なぜこんなことをしたの?」と考えて、憐れみを感じたり、共感したりしていました。きっと皆さんも同じように彼の行動に引き込まれるはずです。

 私たちも目の前のことがうまくいかない時などに「あのライバルさえいなければいいのに」と考えてしまったことはありますよね。そこまではマンスも一緒です。ただ、マンスが私たちと決定的に異なるのは、それを実行にうつしてしまったということなんです。その一点こそが、この映画を徹底した悲劇にしているのだと思います。

――この物語をパク・チャヌク監督は「一番作りたかった物語」とコメントしています。この言葉に何を感じますか?

 監督と長編映画でご一緒するのは、実に25年ぶりだったので、とてもワクワクしました。今回の映画のキャンペーンでさまざまな国を一緒に回り、インタビューや記者会見を重ねるなかで、監督がこの作品を作ろうと思った理由を聞くことができました。

 監督は20年前からこの題材を映画にしたいと考えていたそうです。当時は「これは非常に大きな社会問題だ」と感じていたテーマが、果たして今の時代にも通じるのだろうかと悩んだこともあったそうですが、考え続けるうちに「むしろ今こそ必要な物語だ。20年前と比べても、世界はそれほど大きく変わっていない」と思うようになったと聞きました。

 世界中の人々が共通して共感できる問題を見つけ出し、それを通して観客に考える余地を与える――それは監督の作品に常に通底している要素だと思います。どんなアプローチの作品であっても、必ず問題提起が含まれている。いま監督が社会に問いかけたいテーマが詰まった物語に、自分も関わることができたのは本当に嬉しいことでした。

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