この記事の連載

これまでに、数千話に及ぶ膨大な怪談を発表してきた、生配信サービス「TwitCasting」の人気チャンネル『禍話(まがばなし)』。北九州在住の書店員でありながら、人づてに様々な怪談を集めてきた語り手のかぁなっきさん。彼の語る恐ろしい怪談は、それを聞いた読者がリライトする文化と相まって、令和らしい双方向なホラーコンテンツとして人気を博しています。
そんな『禍話』から今回は、恋人の実家を訪れた男性が体験した、“とある奇妙なしきたり”にまつわるおぞましいお話をご紹介――。
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「うちの実家にあいさつに来ない?」

「当たり前」の対義語が「有り難い」という言葉なことをご存知でしょうか。
感謝の意味で使われがちな言葉なので意外に感じるかもしれませんが、本来の意味は“常にそこにあるものではない”ということです。
誰かの「当たり前」は誰かの「有り難い」でもある。私たちが当たり前と思っている世界がいかに脆いものなのか――かぁなっきさんがある男性から聞いたというこの話は、そんなことを思い起こさせるものです。
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当時、20代後半の男性・Gさんの生活は順風満帆でした。
田舎から夢を抱いて上京し、苦労の末に入社した大手のIT企業では若手ながら持ち前のスキルを活かして高い業績を獲得していました。加えて、会社で知り合ったRさんという気立ての良い女性社員と交際もスタートし、周りからは結婚秒読みとも言われていたそうです。
実際Gさん自身もいつ次のステップに進むか悩んでいたそうですが、そんな彼の雰囲気を察知したのか、Rさんの方からある日「よかったら来週末うちの実家にあいさつに来ない?」と切り出されたのでした。
Rさんの実家はかなりのお金持ちだったそうで、交際中にもそういった話をちょくちょく耳にしていました。しかし、いざ会うとなると相当な緊張を強いられたそうです。
2025.08.15(金)
文=むくろ幽介