駅弁と言えば「峠の釜めし」。「峠の釜めし」と言えば駅弁。そう駅弁の代名詞的存在である「峠の釜めし」の製造元、荻野屋が今年10月15日に140周年を迎えます。創業は1885年(明治18年)。信越本線横川駅(群馬県)にて構内営業を開始しました。まずそのヒストリーを追いましょう。


「峠の釜めし」の誕生は1957年

 創業当時の弁当は竹の皮に包んだおむすび。時代が下ると折詰の幕の内弁当などがラインアップに加わりますが、販売のほうはいまいち低調。そんななか、1957年(昭和32年)、四代目社長の高見澤みねじさんが駅弁「峠の釜めし」を創案。日頃から「温かい駅弁が食べたいのだけど……」と聞いていたみねじさんによる素焼き釜入り弁当は、碓氷峠を越えるため停車時間の長い横川駅で爆発的に売れ、間もなく全国に知られるように。

 1962年(昭和37年)にはモータリゼーション時代に合わせ「峠の釜めしドライブイン」をオープンするなど、先読み経営を実施。1997年(平成8年)には信越本線横川~軽井沢間廃止という打撃を受けたものの「ピンチをチャンスに」を合言葉に、伝統をつないできました。

実は駅弁が「知られていない」という衝撃

 実は荻野屋の調査によると、10代の約半数(48.5%)が「駅弁を買ったことがない」と回答しています(2023年調査)。また1960年代の最盛期には全国で400を数えた駅弁業者も77に減少。駅弁市場の縮小が明らかとなっています。

「駅で買って移動中に食べるシーン自体は減っていますね。電車はスピードアップして目的地まで早く着けるようになりましたから、旅先でその土地のものを食べるのは当然です。ただ駅弁には日本各地の名産品を手軽に味わえる良さがあるので、たとえばデパートの駅弁フェアなんかだとものすごく賑わいますし、売れます。『峠の釜めし』はもちろん駅弁なのですが、売れる場所や食べられるシーンが変わってきていると考えています」

 と、株式会社荻野屋首都圏事業部の浦野恵造部長。(以下、「 」内コメント同氏)

 駅弁は駅弁だけど、売れる場所は駅だけではないということ。しかし若年層へのリーチは課題です。

「駅弁の『峠の釜めし』は年齢が高くなるほど認知度が高いのですが、若年層はやはり弱点でもあります。そこでここ数年行ってきたのがアニメとのコラボです。すでに『鬼滅の刃』『エヴァンゲリオン』『シティハンター』などで実施しており、かなりの手応えを得ています。最新コラボは『推しの子』になります」

2025.10.02(木)
文=前田賢紀
写真=志水 隆