「峠の釜めし」はなぜうまい?

「素焼きの釜に入れた背景には旅客の“温かい弁当が食べたい”というニーズがありました。具材は不変の9種類。具によって味付けを濃い目、薄目とすることで最後まで食べ飽きずに地域色を感じてもらいたい、という想いから選ばれたようです。具材については発売当初こそ一部変更などありましたが、今の具材となってからはレシピを含め、基本的に変わっていません。食材は常に品質を見定めて厳選し、変わらぬ味を守り続けています」

 時代やひとびとの嗜好の変化に合わせ味をチューニングしてきたのかと思いきや「守り続けている」とはちょっと驚きです。それにしてもあんずは異色かと?

「諸説ありますが、あんずは栄養価が高く、整腸作用があると言われています。峠の釜めしを食べた後もお客様が無事に旅を続けることができるよう、万全の体調でいてもらいたいという願いが、具材として採用された理由のひとつです」

 なぜ素焼きの釜に?

「もはや伝わるのは伝説のみ(笑)ですが、四代目社長の高見澤みねじがある時、かねてより取引のある栃木県の益子焼の訪問販売を受けたそうです。その商品の中に一人用の釜があり『これを弁当容器にすれば温かいまま提供できる!』とピンときた。おそらく見た目のインパクトもあると察したのでしょう。『峠の釜めし』販売から現在に至るまで、釜はずっと益子焼です」

2025.10.02(木)
文=前田賢紀
写真=志水 隆