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彼女が残したすまなそうな「おやすみ」

  空っぽになった広間の席でついうたた寝をしてしまっていたGさんは、Rさんに肩を叩かれて目を覚ましました。

「もう、盛り上がりすぎ。ほら、お部屋行くよ」

 肩を支えてもらいながら襖を開けて廊下に出ると、ちょうど玄関でまだ残っていた親族たちとRさんの両親が上着を羽織りながら話しているのが、かすかに聞こえてきました。

「ほな、もうこの後●●さんを見てもらうん?」

「そうなるねぇ。シラフじゃちょっとかわいそうやったけんね」

その名前はふわふわとする酩酊感のせいもあってよく聞き取れなかったそうです。

「ほら、布団敷いてあるからここで寝な」

 そう言ってGさんをなぜか客間に通したRさん。襖をそっと閉じながら、彼女がすまなそうな表情で「おやすみ」と言ったのを聞いたところで、Gさんの意識は途切れました。
 

2025.08.15(金)
文=むくろ幽介