猫はかわいい! それは紛れもない事実。でも、それはなぜ? 動物行動学に詳しく、『教養としての猫』などの著書を持つ富田園子さんに、私たちがなぜこれほどまでに猫に魅かれるのかを解説してもらいました。
人間が猫に魅かれるのは当たり前!
猫はかわいい。だから私たち人間が魅かれるのは当たり前。なのだが、今日はこのテーマにもう少し踏み込んでみたい。猫はなぜかわいいのかについて研究した学問があるからだ。
簡単にいうと、猫は人間の赤ちゃんに似ているのだ。
体に対して大きな頭、大きな目、ふっくらした頬、小さな鼻と口。それらはみな、人間の赤ちゃんと猫に共通する特徴だ。この基準のことをBaby Schema(ベビー・スキーマ)という。
近代動物行動学の第一人者であるコンラート・ローレンツ氏が提唱したものだ。こうした特徴をもつものを見ると、人間は「かわいい」と感じ、それを愛で、世話したくなる。生まれたばかりの赤ん坊がかわいいのは、誰かに自分を世話してもらうためだ。かわいい姿は自分を世話してもらうための戦略なのだ。
人間は自分の赤ちゃんだけでなく、他人の赤ちゃんを見てもかわいいと思うし、動物や創作されたキャラクターにもBaby Schemaがあれば「かわいい」と感じる。これは動物界では稀な現象だ。
動物はみな自分の遺伝子を残すために生きているので、自分の子どもならかわいがるが、他の子どもをかわいがることはない。親族の子どもならかわいがることがあるが、それも自分に近い遺伝子を残すためといわれている。だから血縁関係のない子どもは殺すことだってある。殺すことで自分が新たに繁殖できたり、自分の子どもの生存が有利になるからだ。だから、別種の子どもをかわいがるということは自然界ではありえない。
飼育下では犬が子猫を育てる例などがあるが、それは野生ではないからだ。私たち人間も、本来は人間の赤ちゃんにだけ向けていた「かわいい、護りたい」という気持ちを、文明が生まれたあとは動物などほかのものに向けるようになったのかもしれない。
さて、横道にそれたが、とにかく人間はBaby Schemaがあるものには“かわいさ”を感じる。猫に限らず、犬だってかわいいし小鳥だってかわいいし爬虫類だってかわいい。
でも、私は知っている。猫にしかない、さらなる武器があるということを。それは「声」である。街中や電話の向こうから聞こえる猫の鳴き声と人間の赤ちゃんの泣き声を違えたことはないだろうか? 私は何度もある。それだけ猫の声と赤ちゃんの声は似ているのだ。
なんでこんなに似ているのか気になって調べてみると、理由の一部がわかった。簡単にいうと、赤ちゃんの咽頭は猫と似ているのだ。新生児は咽頭蓋の位置が高く、それによってお乳を飲みながら呼吸するという、大人にはできない芸当ができる。
その代わり複雑な発声はできない。その後、成長するにつれて咽頭の位置が徐々に下降していき、いろいろな音を発声できるようになる。言語を獲得した人間ならではの発達のしかたである。
人間、特に女性の耳は赤ちゃんの泣き声に敏感にできている。子どもがいる女性でもいない女性でも、赤ちゃんの泣き声を聞くとすぐに脳の扁桃体が活性化し、「早く対処して泣き止ませてあげなければ」と感じることが実験でわかっている。古来より子育ては女性の仕事だったから、赤ちゃんの泣き声(苦痛のサイン)に敏感にできているのだろう。
猫に「ニャーン」と鳴いて甘えられると無視できないのは、それが人間の赤ちゃんの泣き声に似ているからだ。
さらに、猫のサイズと重量感も人間の赤ちゃんと似ている。ちょっと高い体温もそうだ。だから私たちは猫をよしよしと抱いてあやしたくなってしまうのだ。
猫って本当にズルい。顔が人間の赤ちゃんと近いのも、声が似ているのも偶然なのに、私たち人間の心をわしづかみにする。「人間てチョロいニャ」と猫は思っているのではないだろうか。
