村上春樹さんの連作短編『神の子どもたちはみな踊る』を原作とする映画『アフター・ザ・クエイク』(10月3日公開)に出演している岡田将生さん。本作はNHKドラマ「地震のあとで」(2025年4月放送、全4話)と物語を共有しつつも、一つの映画として再構築されている。

 村上作品への出演は2021年の映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)に次いで2度目となる今回、岡田さんはどのように物語と向き合い、表現していったのだろうか。表現の醍醐味を改めて知ったという取り組みについて話を聞いた。

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俳優人生のなかでも忘れられない時間になった

――原作では、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災に間接的に関わっている人物たちが描かれています。村上春樹さんの小説を読んでどのように思われましたか。

 すごく面白かったのと、天災を風化させてはいけないという思いを新たにしました。地震の被災地ではなく別の場所で暮らす人間たちを描いていることで、かえって見えてくるものがある。すべてを理解できるわけではないけれど、そんなふうに考えることもありました。

――演じる上で原作を意識したところはありましたか。

 台本で変更されている部分もあるので、台本ベースで考えていましたが、わからないことが多すぎて。井上(剛)監督とも今回が初めてだったので、現場ではよく話し合いながら進めていきました。自分の解釈が正しいのか確信が持てなくて、時間をかけて模索して。監督やスタッフの方々と一緒に作り上げていく過程はとても有意義で大切な時間でしたが、「正解を出さなければならないのかな」という恐怖もどこかにありました。

 (4話を4回に分けて放送した)ドラマと2時間12分に凝縮された映画とでは、見え方がまるで違っていて。完成した映画を観たとき、より地続きで繋がっていることで僕も少し理解できた気がしました。この作品を経験してから特に生と死についてよく考えるようになって、これからの自分の歩み方を考えるきっかけにもなりましたね。

――“わからない”面白さが考えるきっかけになるという感覚を得られたのでしょうか。

 答えは無限にあって、こうだよねと型にはめるとつまらなくなってしまう。現場ではなるべくフラットな状態で皆と一緒に思考を巡らせることを大事にしていました。その作業は辛くもありましたが、自分にとってはとても好きな空間でした。

――思考を巡らす余地があるのは、村上作品の共通性として感じられていますか。

 そうですね。『ドライブ・マイ・カー』のときもすべてをわかってはいなかったですし、濱口(竜介)監督に必死についていきながら、どう応えていくかでした。……ただ、世界がどこか急に変わる瞬間があって、それを見逃さずにどのように表現していくか。それは僕の俳優人生のなかでも忘れられない時間でした。それを追い求めたくて、この台本に食らいついていきましたね。今の僕の年齢でどう表現できるか、いろんなスタッフの方々や俳優さんたちとの協働によって大きく変化していく、この仕事の面白さを改めて感じました。

――村上作品をドラマ化・映画化した今回の作品で、俳優として表現を追求する姿勢を改めて一段深く体感されたのですね。

 だからすごく疲れた記憶があります。撮影中は早く終わってほしいとちょっと思ってしまったくらい(笑)。井上監督とは今回初めてでしたが、僕は監督が大好きになりました。

2025.10.03(金)
文=あつた美希
ヘアメイク=磯野亜加梨
スタイリスト=大石裕介