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妻夫木聡さん『宝島』インタビュー【前篇】
妻夫木 聡さん『宝島』インタビュー【後篇】
取材開始前、妻夫木聡さんはいそいそと名刺を差し出した。それは自身の最新主演映画『宝島』の“宣伝アンバサダー”という肩書が入ったもの。相手の目をしっかりと見つめながら、なごやかに挨拶をするその姿は堂に入っており、本作への強い想いを受け取った。
本作では戦後の沖縄を舞台に、激動の20年間の出来事、そこに生きた人たち――妻夫木さんの演じる主人公・グスク含め――の想いをまざまざと見つめることになる。クランクイン前に妻夫木さんが発した「監督と心中するつもり」という覚悟の言葉が決して誇張ではなかったことが、インタビューへの真摯な向き合い方や言葉の端々から伝わった。
なぜこれほどまで本作に情熱を注ぐのか。インタビュー前篇では、その背景を伺った。

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「グスクは妻夫木くんしかいない」
――妻夫木さんの代表作をまた更新するような、力強く圧倒的なスケールの映画『宝島』です。大友啓史監督からオファーがきたときは、どのようなお気持ちでしたか?
とにかく光栄でしたし、うれしいという気持ちが強かったです。僕はかつて『涙そうそう』(2006年公開)という映画に出演したことがきっかけで、舞台となった沖縄のコザという街が大好きになったんです。親友もいっぱいいますし、おそらく役者の中だったらコザのことを知っている方だし、愛していると思っていて。そんな大好きな街を舞台にした映画にまたオファーしていただけるなんて、僕からしたら奇跡のような話に感じましたし、すごく導かれたなあとも思いました。

――物語では、1952年アメリカ統治下の沖縄での出来事が描かれています。妻夫木さんはグスクという刑事を演じました。
お恥ずかしながら、僕はオファーをいただくまで真藤順丈さんの原作小説『宝島』を読んでいなかったんです。米軍基地から物資を奪って住民に分け与える「戦果アギヤー」のことも知らなかったですし、「こんな過去があったのか」と初めて知る事実がたくさんありました。
原作を読んでいく中で、自分がグスクを演じるイメージがすぐには湧かなかったので、一度監督にお会いすることにしました。「本当に僕で大丈夫ですか?」と確かめたかったんです。そうしたら、監督からは「いや、もうね、大丈夫というか、妻夫木くんしか浮かばなくて。グスクは妻夫木くんしかいないんだよね」と言われたんです。監督の中で僕が演じるグスクをすでに思い描いてくださっていたので、「そこまで言っていただけるなら」と引き受けました。
2025.09.20(土)
取材・文=赤山恭子
撮影=山元茂樹
ヘアメイク=大上あづさ
スタイリスト=カワサキタカフミ