10年後、20年後、みんなで考えられる映画
――映画では原作から4つのエピソードを映画化しています。ご自身が出演されたエピソード以外で気になったものはありましたか。
見ていて印象に残ったのは堤(真一)さんの「アイロンのある風景」(焚き火をする男と家出少女が交流を重ねるエピソード)でした。焚き火が命そのもののようで、儚いけれどとても響く。ここ1年で自分の人生が大きく変わったこともあり、焚き火のシーンはまともに見られないほど胸に迫りました。この4つのエピソードは年齢や置かれている状況次第で作品の見え方が大きく変わる。最初は違うエピソードを好んでいたけれど、今はまったく違って響いてくる。それが面白いと思いました。

――ご自身が出演されている最初のエピソード「UFOが釧路に降りる」についてはいかがですか。物語の舞台は1995年。妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路でUFOの不思議な話を聞く男・小村を演じられました。
テレビから阪神・淡路大震災で亡くなった方の名前が淡々と音声で伝えられる場面が、とても強烈で辛かった。世界では戦争や悲しい出来事が今も溢れていて、それをどう受けとめてどう動くのか、そこで何も動けないのが小村なんです。あの人は少し閉じている人間ではあるけれど、完全に閉じてもいないんですよ。そんな彼がどう生きていくかを自分なりの判断で選ばざるを得ない状況に置かれていました。この作品は2024年の夏に撮影しましたが、今の僕が小村を演じたら、また違う表現になると思います。完成した映画を観たときに、こんなにも印象が変わるんだなと。この映画を10年後、20年後に観ると、また違う姿をみせてくれるはずで、そういう映画に出会えたことに感謝しています。

――ドラマとは編集が異なり、映画では特に、4つのエピソードを繋ぐ“赤い廊下のシーン”が印象的でした。映画ならではの面白さについて、どのように感じましたか。
映画のタイトル「クエイク」が示すように、地震や震災は忘れてはいけない出来事であり、僕たちが語り継いでいかなければならないですよね。映画として10年後、20年後も観て思い出し、みんなで考えることができるのはいいことだなと。ドラマではなかなかできないことであり、映画はより残っていくものなので、責任をもって臨むと同時に、自分自身にも刻んでいく体験でした。映画館で観客のみなさんと傷を確かめ合いながら歩んでいけることは、この作品の強みなのではと思っています。
――ご自身が感じるこの作品の魅力について教えてください。
この作品には素晴らしい方々がたくさん出演していますが、その中でも個人的には堤真一さんと「続・かえるくん、東京を救う」に出演された佐藤浩市さんはやっぱりすごいなと。役者としての存在感はもちろん、年齢の重ね方、経験の積み方が画面に映っていて、まずそれだけでもこの映画を観る価値があるのではないかと思います。だって佐藤浩市さんがかえるくんと会話する場面はこの作品でしか見られないですからね(笑)。この映画を締めてくださるのは浩市さんですし、先ほど話した焚き火のシーンの堤さんも、僕は憧れました。この作品の魅力についてはこれまで話していることもいろいろあるなか、最終的にはこのお二人の存在に尽きますね(笑)
2025.10.03(金)
文=あつた美希
ヘアメイク=磯野亜加梨
スタイリスト=大石裕介