あの頃、好きだった景色が……
教室をいくつかまわる。高校2年のときはC組で、窓側の席になったことがあった。北向きに大きく景色が開ける。北側は板橋区の方向だ。栄えた街などないから低い建物が続くだけで、眺めとして面白みはなかったはずだが、当時の私はその景色が好きだった。特別なのは大谷口にあった給水塔が見えることぐらい。今は古いものは取り壊され、似たデザインで新しくポンプ塔が建っていると聞いていたが、教室の窓からは見えなくなっていた。変わっていないようでいて変わってしまっているんだ、と気がついてなんだか悲しくなる。それならまったくみたことない景色に変わっていて欲しかった。
3年の時、D組の教室は南側に窓が開けていて、新宿方向が見渡せる。K先生は「いい景色だったよな、昔はNTTの建物がよく見えたけど」「今は違うな」と、歌舞伎町にできた商業ビルを指差した。Iさんも含めた二次会参加組は会場に移動してしまったが、ノスタルジーに支配された我々の要求はエスカレートしていき、中学1年生の頃だけ使ってた棟に入りたい、と言い出し、先生の許可を得て探索を開始。「こんな色だったかな」「こんなに低かったかな」「このオブジェまだあるんだね」。中学生の頃は身長が足りなくて見ることはできなかったであろう西側、練馬区方向に開けた窓から景色を見る。
トイレにあった小窓を覗いたりして、当時覗けるような身長ではなかった気がするのに、そこから見えたのは確かに知っている景色だったから、妙な気持ちになった。地下にある剣道場や、かつて根城にしていた放送室なども見て回った。変わっている部分、変わっていない部分のどちらもが我々の胸に突き刺さった。帰り際にMが「いや、こっちについてきて正解だったよ(私と松本くんを指して)。昔から二人についていけばなんか違うもの見れたんだった」とボソッと言ったときに、私はなんだか今までどうやって過ごしてきたか、ということすら肯定されたような気がした。あの頃から変わらないし、あの頃とは変わってしまっている、そのどちらもが私のそばにある、それがわかったのが嬉しかった。
澤部 渡(さわべ・わたる)
2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。25年にCDデビュー15周年を迎え、5月14日にはアルバム『スペシャル』をリリース。合わせてリリースツアー「スカート ライヴツアー2025“スペシャル”」の開催も決定!
https://skirtskirtskirt.com/

Column
スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて
シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。
2025.03.29(土)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ