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 縄文時代から食べられていたとされる山菜。春に芽吹く新芽や若葉は、栄養価が高いことでも知られ、季節を感じられる食材としても重宝されています。

 豊かな自然に恵まれた新潟県は、山菜の宝庫でもあります。さまざまな山菜を楽しむことができ、「Restaurant UOZEN」の料理にも欠かせません。

 今回は、ジビエの名残と風味豊かな山菜を活かした春のメニューを、オリジナルのノンアルコールドリンクとともにご紹介します。


地元で採れた山菜とジビエのおいしい出会い

 野山に自生し、ほのかな苦味や食感が魅力の山菜。新潟県三条市の「Restaurant UOZEN」では、フランス料理の技法で山菜の持つ独自の風味を尊重したメニューが、この時期だけのお楽しみとして人気を博しています。

 オーナーシェフの井上和洋さんは、自ら狩猟にも行くジビエの名手。春でも野山に足を運び、天然の山菜や春キノコを採り、ジビエの名残とともに料理に活かしています。

 コースの幕開けを飾るアミューズ3品は、ソファー席でゆったりといただけます。料理とともに自然派ワインを合わせるのも心躍りますが、ここでしか味わえないメニューを展開するノンアルコールドリンクとのマリアージュも、ぜひ試してみたいもの。

 春は、妻でソムリエの真理子さんが選ぶ「オリジナル ノンアルコール ペアリング」をオーダー。じつはドライバーやお酒が飲めない人だけでなく、ワインとのペアリングと一緒に楽しむゲストも少なくないのだとか。アミューズには、ウェルカムドリンクにぴったりな泡ものを用意。「ルレクチェ・緑茶」をスパークリングにして、シャンパーニュのように乾杯です。

「新潟県を代表する洋梨、ルレクチェの果汁と、日本最北限のお茶の産地として知られる村上市の緑茶です。それを別々に発酵させてコンブチャにしてブレンドし、フキノトウの風味をつけてスパークリングにしてご用意しました。フキノトウを蒸留したエキスはシェフが手作りしたもので、清々しい香りもお楽しみいただけます」

 春の香りを漂わせて登場したのは「ネマガリダケ」。山椒の枝の上に石窯で焼き上げたネマガリダケをのせ、その熱によってふわりと立ち上がる爽やかで甘みのある木の芽の香りが、続く料理への期待を高めます。

 季節の香りを賞味しながら、熱々のうちに皮をむいていただきましょう。こうしたものは、お箸よりも手づかみで食べるほうがおいしく感じるもの。焼きもろこしのような甘みがあり、シンプルに旬を味わう春の皿には山椒塩が添えられおり、味の変化も楽しめます。

 「タルト」には、薄いタルト生地に刻んだコシアブラ、猪のリエット、コシアブラの素揚げを組み合わせ。季節のフィンガーフードをフルーティなスパークリングとともに堪能したらカウンター席へ。

 2品目は、佐渡産のボタンエビを使ったシグネチャーメニュー「ボタンエビ ブイヤベース仕立て」。ボタンエビをコンソメでコーティングし、ルイユとハーブをあしらって仕上げたひと皿は、口の中に運んだときにブイヤベースとして見事に完成します。

 ボタンエビには、ルイボスティをベースにした「ルイボスティ・赤紫蘇・トマト」を、色合いもさりげなく合わせてペアリング。

「ルイボスティに赤紫蘇のコブチャを合わせ、仕上げに発酵トマトのコンソメのエキスで旨みを加えています。エビとの相性を考え抜いた一杯をどうぞ」

 農家さんで廃棄される量が多いという赤紫蘇を、夏のうちにジュースにして発酵させてコブチャにするなど、無駄なく活用してフードロスにも貢献しています。

 次なる料理は、ペーパーに包まれて供されます。クリップを外すとカラフルな花々とアスパラガスのホワイヨがお目見えする春のガレットです。

「ホワイヨとは、チーズとパン粉を練り込んで焼くお料理のことです。アスパラガスにナッツのような香ばしい風味が印象的なコンテチーズをのせて焼き上げ、自家製のブレザオラを忍ばせています」

 極太で立派なアスパラガスはやわらかく、春のおいしい時期しか収穫しないという「曽我農園」から仕入れたもの。全国トマト選手権で最高金賞受賞など、おいしいトマトでも知られる新潟市北区にある農園です。

 また、味のアクセントとなっているのが自家製のブレザオラ。

「長岡市の加勢牧場さんと親しくさせていただいているのですが、ミルクが出なくなったガンジー牛を丸ごと引き取らせていただいて、そこから作った生ハムになります。約3年熟成のブレザオラなので、旨みもしっかりと感じられますよ」

 ガレットのペアリングには、「リンゴ・ホエー・アーモンド」を。リンゴ果汁をベースに、ホエー、青パパイヤやマンゴーといったドライフルーツを一緒に漬け込んで、ローストしたアーモンドの風味を合わせています。ガンジー牛乳のヨーグルトからできるホエーは、やわらかい乳酸の風味も。

 さらにガレットを彩るボリジ、ナスタチウム、ルッコラといった花々はすべて畑から調達したもの。それぞれに、苦味、辛味、酸味も感じられ、香ばしくコク深いホワイヨとのコントラストも堪能できます。

2025.07.25(金)
文=大嶋律子
写真=佐藤 亘