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 ズワイガニ、南蛮海老、あんこう、寒ブリなど地魚に恵まれる、冬の新潟。日本海の幸だけでなく、山の幸も充実しており、猪、鹿、キジ、鴨、クマ、野兎といった「ジビエ」も楽しめる季節です。

 今回は、シェフ自身がハンターであり、ジビエ料理に定評のある「Restaurant UOZEN」の冬のおまかせコースをご紹介します。


◆猟師のシェフだからこそ生み出される、多彩なジビエ料理

 新潟県三条市にある「Restaurant UOZEN」は、地産地消のお手本のようなフレンチレストラン。特筆すべきは、オーナーシェフである井上和洋さん自身も猟師であること。

 ジビエを提供するお店は数あれど、食肉処理業の免許も取得し、敷地内に処理場を建て、自ら解体や加工までされているシェフは全国的にも稀です。

 新潟県の狩猟期間は、安全面や動物の繁殖時期などを考慮し、毎年11月15日から翌年 2月15日まで(鹿・猪は3月15日まで)と定められています。

 「狩猟といってもいろんな方法があります。わなや網を仕掛けたり、銃でも複数人で追い詰めて捕獲する巻き狩りと単独の忍び猟とあったり。僕は愛犬のハツを連れて一銃一狗の忍び猟で鹿や猪、野鴨などを仕留めます」と話すのは、地場の自然の恵みを革新的な料理で表現している井上シェフ。

 猟期中は雪が降ると獲物を探しやすいのだそう。「雪によって足跡が追いやすくなるんです。何の足跡か、どれくらい前のものか、どこに向かっているのか。いろんな痕跡情報からこの先の判断がしやすくなりますし、雪があれば山の斜面も登りにくくなるので、獲物がもがいているうちに撃てる。足止めの役割を担ってくれる相棒のハツも頼りになります」

 井上シェフが狩猟免許を取得したのは、地元の真鴨のおいしさに驚き、素晴らしいジビエが身近にあることに気づいたからだそう。自ら仕留めた命に適切な処理を施し、余すことなく使うことが、極上のジビエを生み出すキーポイント。

 「ジビエは、捕獲から処理までのスピードが勝負です。例えば撃ってすぐ血抜きし、内臓を取り出すことで肉の臭みを防ぎ、旨みを引き出せます」と井上シェフ。さらに、その肉の状態を見極め、最適な加工や保管方法を選ぶことも重要だといいます。

「基本的には僕はあまり熟成させないですね。仕留めたばかりの肉ってカチカチで味がしないんです。死後硬直がとけると味がやわらかくなるので、1週間か10日ほど処理場に吊るしておいて、死後硬直がなくなってから捌きます」

 保管する場所はマイナス60度のスーパー冷凍庫だけでなく、肉醤など調味料にして店内に置かれていたり、厨房の所々にシャルキュトリとして吊るされたりと、さまざまな形態で保管されます。

 冬の間に獲ったさまざまなジビエの骨や端肉も、フォンなどで煮出し、コンソメにして冷凍しておくという井上シェフ。狩猟シーズンが終わっても春や夏の料理のベースとしてジビエのコンソメが活躍していきます。

「発酵や保存によって年間を通してジビエ料理を提供していますが、ジビエが主役となるのはやっぱり狩猟のシーズンですね。鹿、猪、クマ、鴨、キジ…。冬はジビエの品数を多めに構成し、ひとつのコースに多彩なジビエを散りばめています」

2025.04.20(日)
文=大嶋律子
写真=榎本麻美