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◆雪国ならでは逸品に、自然の恵みをしみじみと。

 雪国では野菜に限らず、木の実や野草、フルーツに至るまで糖度が高い作物が多いのが特徴です。雪の下で越冬させる白菜も、寒さで凍らないよう、糖度が高くなり旨みが増すことで知られています。

 5品目の「雪下の白菜」は、雪の下で甘みが増した白菜を、お手製の石窯で1時間半ほど焼き、いっそう白菜の旨みを凝縮させたひと皿。

 芯をつけたまま焼かれた白菜はとろりとして甘くしみじみするおいしさ。そこにチーズを削りかけ、2種のソースでいただきます。

「白菜にかけたコンテチーズは、フランスのジュラ地方でつくられたハードタイプのチーズです。その上にかけるソースにも同じジュラ地方のヴァン・ジョーヌというワインを使っています」

 ヴァン・ジョーヌとは、黄色いワインともいわれている伝統的なワインで、ドライフルーツのような風味がコンテチーズの個性とも重なって、抜群の相性だといいます。

 6品目に供されたのは「ラビオリコンソメ」。ジビエで作ったコンソメのスープは、清らかで澄んだ味。キジ肉とヤマドリタケを包んだラビオリに、ウド、ナメコが入っています。

「あまり知られていませんが、秋の大崎山ではポルチーニも採れるんですよ。ヤマドリタケといって、海外では食用として好まれるキノコです。それをキジ肉と一緒にミンチにして詰めたラビオリです。淡白でクセのないキジ肉は出汁の旨みが出るので、コンソメと合わせてご堪能ください」

 続くジビエ料理は、井上シェフが愛犬ハツと仕留めた鹿がメインです。石窯で焼いた鹿のモモ肉は驚くほどやわらかな仕上がり。鹿の出汁とコウタケを合わせたソースが、旨みのある鹿肉をさらに引き立て、口の中に豊かな味わいを広めてくれます。

 「秋に収穫した天然のコウタケが引き立て役。乾燥させて乾物になった状態から戻すと、より香りと味を引き出せるんです」と井上シェフが話す通り、コウタケの風味が効いているようです。

 極寒の雪山で育った天然鹿の肉は、赤身のやわらかい食感とコクと旨みが魅力で、脂っこくないので、赤身肉のおいしさを楽しみたい方におすすめのジビエです。「鹿の石窯焼き」に添えたほうれん草の上にもさりげなくジビエが。

「鹿節です。鹿の干し肉を鰹節のように削ったもので、旨みがしっかりありますよ」

 狩猟シーズンになると新潟県内の田んぼではお米の収穫が終わり、その落穂を食べにたくさんの鴨が渡ってきます。新潟のおいしいお米を食べて丸々と肥えた鴨ですから、おいしいのはお墨付き。

 もうひとつのメインディッシュは、「真鴨のロワイヤル」です。フランスでは冬の風物詩としても知られる伝統料理の「野兎のロワイヤル」を真鴨でクリエイション。

 網で捕らえた天然の真鴨を開いて、さまざまなジビエの肉と一緒に棒状に巻き、赤ワインでじっくり煮込んだものをカットして盛り付けたひと皿です。仕上げにビオレ・ソリエスのキャラメリゼを上に飾ることで、甘みとほのかな苦味のアクセントをプラス。さらに雪下にんじんのペーストが重くなりがちな料理を軽やかに仕上げています。

「今日は熊、猪、鴨のミンチと熊の手をカットしたものを包みました。なので、まわりが鴨肉で包まれているような構成になっています。なかなか食べられない熊の手はコラーゲン素材でもあるので、探せば食感でわかるはず。赤ワインで煮込んでソースに仕立てていますが、野兎のロワイヤルのように血は入っていません」

 ロワイヤルというだけあって、フランス料理の調理技術が凝縮されたような最高峰のジビエ料理にうっとり。贅沢なひとときに酔いしれましょう。

 この日のコースは季節のデザートが2回に分けて供されました。まず1品目は「熊アイス」。どこが熊かというと、熊の脂を使ったアイスクリームだから。

「熊の脂としてよく流通しているのは皮下脂肪なんです。『熊アイス』に使っているのは、内臓脂肪。酸化していないクリーンな脂で、それを丁寧に抽出したものを使います。山に行くと小瓶で売っていたりする高価な熊の脂ですね。やけどや美容、保湿効果もあるといわれています」

 通常アイスクリームには生クリームを使いますが、その代わりに熊の脂を使っています。もったりとせず、すっきりとした後味で、口どけがよいのが特徴です。

「うちで使うミルクは長岡にある加勢牧場さんのガンジー牛乳がベースになっています。栄養価の高い通称ゴールデンミルクと呼ばれる牛乳は、コクがあって濃厚なのに後味さっぱり。今回の締めのデザートのメインとしても使っています」

 食後の2品目のデザートは、お米をミルクで炊く「リオレ」と冬の柑橘を一緒に堪能。

「リオレはお米をミルクで炊くフランスの家庭料理です。新潟県産コシヒカリをガンジー牛乳で炊いたリオレに、マスカルポーネチーズとガンジー牛乳のアイスクリーム、そして佐渡みかんと地元の金柑と合わせました」

 濃厚なミルクの味わいから柑橘の香りが漂い、すっきりした後味のデザートです。ムチムチとした独特な食感もたまりません。

 ドリンクは佐渡で自生している野草をブレンドした「さどのめぐみっ茶」、地元下田にある自家焙煎「yamaga coffee」のコーヒーの2種からセレクト。「さどのめぐみっ茶」は「玉川堂」の急須で供されます。

「Restaurant UOZEN」では、「マルナオ」「ラッキーウッド」のカトラリーをはじめ、「玉川堂(ぎょくせんどう)」「大橋保隆」の鎚起銅器、名工「日野浦刃物工房」の包丁といった、ものづくりのまちとして世界的に有名な「燕三条」の職人の手によるプロダクトを積極的に使用しています。

「実際に手に持って使っていただくことが一番ですから。ここでご自身に合ったものを見つけて、工房まで足を運ぶというゲストも多いですね」

 嬉しいのは、その一部が「燕三条駅」の構内でも買えること。

「鎚起銅器職人の大橋保隆さんは、実際に自身で作ったものを使ってもらいたいと『鎚起銅器 銅鍋づくり体験』を各地で行っていますよ。うちでもその銅鍋を使った定番のメニューがありますので、春にお出しできると思います」

 銅鍋を使った定番メニューを楽しみに、次回は里山の木々が芽を吹き、緑の衣をつけはじめる頃にお邪魔します。

Restaurant UOZEN

所在地 新潟県三条市東大崎1-10-69-8
電話番号 0256-38-4179
入店時間 ランチ11:30~11:45(土・日・祝)、ディナー18:00~18:15
定休日 月・火曜
料金 ランチ・ディナーともに「おまかせコース」16,000円、「アルコール ペアリング」9,000円~、「オリジナル ノンアルコール ペアリング」6,500円~
https://uozen.jp

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2025.04.20(日)
文=大嶋律子
写真=榎本麻美