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 わざわざ足を運びたいお店、それが新潟の三条市にあります。東京から新幹線で約2時間。燕三条駅からクルマで15分ほどの田園地帯に位置するフレンチ「Restaurant UOZEN」です。

 四季折々、多種多様な食材に恵まれる新潟。天然のキノコなどが収穫されるシーズンには、どんな料理が並ぶのか。秋のコース料理をご紹介します。


素材を昇華させる、オリジナリティあふれる濃厚な料理の数々

 2020年に『ミシュランガイド新潟2020 特別版』で2つ星を獲得し、「新潟ガストロノミーアワード」で特別優秀賞など、海外からも足を運ぶゲストが多い「Restaurant UOZEN」。地産地消のお手本のようなフレンチレストランで腕を振るうのは、オーナーシェフの井上和洋さんです。

 お店のコンセプトは「猟と漁と自然」。使用する食材は、シェフ自ら山で仕留めたジビエを中心に、海で釣った魚、自家栽培の野菜をはじめとした新潟県産のものばかり。自身で調達しているからこそ、深い知識と理解があり、発酵や保存により年間を通して多彩なジビエを「シェフのおまかせコース」(16,000円、税・サ別)で提供しています。

 野菜やジビエの端材も無駄にせず、細部まで慈しみあふれる一皿に仕立てる。それが、井上シェフにしか生み出せない、自然の恵みや命の息吹を感じられる料理です。

 そんな井上シェフの思いが垣間見えるのが、最初のアミューズ3品です。この日は狩りで仕留めたジビエをアメリカンドッグのように仕立てた「ジビエドッグ」と、猪のリエットを詰めた「タルト」、そして「佐渡の毛蟹」をスプーンに。遊び心のある盛りつけでテーブルに運ばれる一皿一皿が、がぜんコースへの期待を高めてくれます。

 食べ方は自由ということなので、枝を持って「ジビエドッグ」にかぶりつくと、野生味があって美味! しかもまったく獣臭さは感じられません。使用している食材は、井上シェフ自ら仕留めた猪と鹿、熊の肉をミンチにしてソーセージに加工したもの。

 「ローストなどには使えない肉の端材ですね。とはいえ、スープの出汁などにまわさなくてもいいほどおいしい肉なので、それをミンチにしています」。仕留めたものの肉はもちろん、骨や血、内臓、脂などもすべて大切に扱っている井上シェフ。

 黒にんにくのソースは、畑で育てたにんにくを9日間かけて発酵させた黒にんにくを使っているそう。

「雪が降る新潟では、冬場は畑で作物がつくれないので、いまのうちににんにくを植えて越冬させると効率がいいんです」

 ないものは、基本的にはつくる。「タルト」をのせたスノコのような器も井上シェフのお手製だそう。ちなみに毛蟹が盛られた木のスプーンは、昨年のリニューアルに合わせて特注したもので、長岡市で活動する木工家の富井貴志さんによるもの。こうした器もまた「Restaurant UOZEN」の料理を美しく彩ります。

「富井さんは東京でも展示会をされているので、お客さまの間でも『展示会で買ってきたよ』なんてよく話題にあがるんですよ」

 妻でソムリエの真理子さんが選ぶワインとのペアリングも「Restaurant UOZEN」でのお楽しみ。アミューズには、ジェローム・プレヴォーの「ラ クロズリー レ ベギーヌ エクストラ ブリュット」をいただき、乾杯です。

「出汁っぽい旨みを感じるシャンパンです。優しい甘みがあるタイプのピノ・ムニエという品種で、自然なつくりでつくられています。3種のアミューズ、どれと合わせてもベストマッチだと思います」

 2品目は、釣りたてのアオリイカのシンコや、天然のトモイロラッパダケ、自家製の猪の生ハム「コッパ」を一皿で味わえる、絶妙な構成。赤い粉末はかぐら南蛮の自家製のパウダーで、その酸味と辛みがそれぞれの素材の味を引き立てます。

「流通しないくらいの小さな赤ちゃんのアオリイカは、釣ってきたばかりなので本当に新鮮です。それを石窯の高温でさっと炙っています。トキイロラッパダケは、フランスでジロールと親しまれているアンズダケの仲間になります。チーズやナッツのような風味があって、食感もいいですよ」

 ペアリングはフランスのロワール地方のワイナリー、キャロリーヌ・バンの自然派ワイン「クゥール ヴァイラン」を。完熟グレープフルーツのような果実感がありながら、徐々に蜂蜜のようなニュアンスも楽しめます。

 次なる料理は、丸ごと揚げた山女魚を熊のラルドと合わせた「山女魚のガレット」。ガレットには魚沼産の蕎麦粉を使っています。そのまま手でぐるぐるとロールして、サバイヨンソースをつけて食べるワイルドな逸品です。

「魚の上の薄いヴェールのようなスライスは、月の輪熊の脂になります。ラルドといって生ハムのように熟成させるのですが、豚のラルドよりも口どけがよく旨みもあります。そこに山椒の新芽、野菜と味噌を煎った『糀屋団四郎』さんの鉄火味噌、下には葉ワサビのピクルスを敷いています」

 葉ワサビや山椒といった春に採れる山菜は、パウダーにしたり、醤油漬けにしたり、酢漬けにしたりと、さまざまな方法で保存して料理に生かしているという井上シェフ。発酵食品をプラスすることで、料理がより複雑でニュアンスに富んだおいしいものになっているようです。

 「ガレットには、エキゾチックな香りが特徴のイタリアのオレンジワインをどうぞ。ツンとした独特な酸と風味があるので、芳ばしい山女魚と相性がよく、旨みが広がります」と真理子さん。

 続いて供されたのは、「あかもんと佐渡産レモンチェッロ」。魚沼地方の一部でつくられているオレンジ色のかぼちゃ「あかもん」は、ほくほくとした食感と、とろりとした甘さが特徴だそう。それを佐渡産のレモンでつくった自家製レモンチェッロで火を通し、レモンの風味を浸透させます。

「飴色に炒めた玉ねぎからとっているコンソメスープに、緑のソースはイチジクの葉っぱのオイルです。スプーンを使って2つのソースをしっかり絡めてお召し上がりください」

 かぼちゃの上に「加勢牧場」のゴールデンミルクでつくった自家製サワークリーム、佐渡レモンでつくった発酵レモンを刻んだものをのせ、畑のひまわりの花びらをちらり。スプーンでいただくと、爽やかでコクうま! 新鮮なおいしさに驚きます。

2024.12.07(土)
文=大嶋律子
写真=榎本麻美