味覚の秋は、彩り豊かな天然のキノコをふんだんに使って
雪国新潟の人々の暮らしには、季節によってさまざまな楽しみがあります。春になると山菜や摘み草、そして秋から初冬にかけて行われるのは、天然キノコの収穫です。昔から良質なキノコ類が採れる妙高や魚沼地域では、天然のマイタケ、ナラタケ、ヒラタケ、コウタケなど、市場などでは見かけることのない珍しいキノコが生息しています。
「天然のキノコ探しは宝探しのように楽しいですよ。白と黒とある舞茸は、黒が高級だとされますが、私は白も好き。その味はどういう環境の中に生えているかで違います。沢沿いのミズナラの近くだと良質なものがとれやすいですね。あと、山菜が多い地域はキノコも豊富だと思います。こんなに恵まれた土地はないかもしれません」
6品目は山の滋味あふれるスープをしみじみと。
「山で採れた天然キノコと月の輪熊のスープです。月の輪熊はマイナス60度の冷凍庫で保存していたものです。肉も使っていますが、熊のコンソメのスープにキノコの出汁を合わせています」
その熊のコンソメをいかしたクリアなスープは、トウモロコシのような甘みがあり、それでいてさらりとした後味。熊の肉も臭みがまったくありません。やわらかくて噛むほどに脂の甘さが染み出してくるジューシーな味わいです。
地元の銀杏も加えたスープには、イッポンシメジ、サクラシメジ、ハタケシメジ、センボンシメジ、ショウゲンジといった出汁がとれるキノコもふんだんに投入。また、白い房のような珍しいキノコも入っています。ヤマブシタケといって、キノコ自体にクセはなく、出汁を含んだ針のような部分がぷりぷりして美味です。
魚料理は、井上シェフが佐渡沖で釣ったカサゴを石窯で焼き、発酵トマトのソースをかけていただくというもの。高温の石窯で焼くことで魚本来の香りがより自然に生き、ふっくらと焼き上がります。「火入れは油を使わずに揚げているようなイメージです」と井上シェフが話す通り、外側はパリッと、身はややレア加減でぷりっとしており、旨みが閉じ込められています。
「合わせている焼きナスや松茸なども新潟産のものですね。細切りにしているのが山でとれた天然の松茸。生ですが、熱々の発酵トマトのソースをかけて香りを出します。ソースになじませてから、カサゴといっしょにどうぞ」
マイルドで酸味のある発酵トマトのソースは、魚介類とよく合います。松茸の風味も楽しめるひと皿には、同じく松茸のような香りをまとった赤ワインで「同調のペアリング」を堪能。
メインディッシュともいえる肉料理は、井上シェフが山で仕留めた猪のヒレ肉にチーズとパン粉を練りこんで焼き上げた一皿です。この日は、ナッツのような香ばしい風味が特徴のフランス・ジュラ地方のコンテチーズを使用。小粒ながらも甘みが強い下田の山栗や天然の舞茸も忍ばせ、マデラ酒のソースといただきます。バランスも素晴らしく、最後まで残さずにソースを味わいたい衝動にかられるほど。
「ペアリングには、イタリアのピエモンテ地方の自然派ワイン『カーゼ コリーニ アキッレ’19』を選びました。ちょっとスパイシーさと完熟したブドウの旨みがあるタイプです。猪のヒレ肉は意外とさっぱりときれいな味なので、軽やかな脂との相性もよく絶妙に融合します」
この日のコースは季節のデザートが3回に分けて供されました。まず1品目は地元、下田育ちの大粒の落花生「おおまさり」を使ったアイス最中です。
三条市の山間地域にある下田は、村の中心を五十嵐川が流れ、美しい風景が広がるところ。豊かな自然環境の中で栽培されたおおまさりは、落花生の約2倍もの大きさで、ホクホクとして甘みもあります。その個性を存分に生かしたアイスクリームを落花生型の最中でサンド。ミルキー感も加わり、心地よい余韻が口の中に広がります。
続いて2品目のデザートは、幻の黒いダイヤとも呼ばれる佐渡産の「ビオレ・ソリエス」。皮が薄く糖度が高い黒いイチジクで、やわらかい果実を皮ごと食べることができます。
「ビオレ・ソリエスを石窯でローストして、それを紅茶風味のクレームブリュレ仕立てにしました。添えているのは、加瀬牧場さんのガンジー乳から手づくりしたアイスクリームです」
フランス原産の黒イチジク、ビオレ・ソリエスは、栽培が非常に難しく収穫量が少ない希少な品種ですが、モーツァルトの曲を流したり、佐渡の椿油を塗ったり、試行錯誤の末、佐渡島で栽培に成功したというイチジクです。
糖度は18~24度と高く、その深い甘みとなめらかな食感を生かした「ビオレ・ソリエス」には、天日干しブドウと追熟ブドウをオーク樽で半年熟成させた甘口の白ワインをペアリング。
「陰干ししたレーズンのようなブドウからつくられるので、ドライフルーツやスパイスのような味わいと豊かな香りの余韻があります。これだけでもデザートのように楽しめますが、季節のフルーツやクリームを使ったデザートにもぴったりです」と真理子さん。
コースのラストはお茶菓子で締めます。地元、下田のブルーベリーを使ってフランス伝統の焼き菓子にした「ファーブルトン」と、枝に刺したわらび餅をホワイトチョコレートフレークで包んだ「ヨモギのわらび餅」。
ドリンクは自家菜園のフレッシュハーブティー(冬季はお休み)、佐渡で自生している野草をブレンドした「さどのめぐみっ茶」、地元下田にある自家焙煎「yamaga coffee」のコーヒーの3種から選べます。
「yamaga coffeeさんのコーヒーは、浅煎りの中でも浅煎りでクリアな果実感もあって、とてもおいしいんです。スノーピークさんのキャンプフィールドの方向にあるので、うちで飲んで買いに行く人も多いです。ネット販売でも買うことができますよ」
ごちそうさまでした。という気持ちでいっぱいになる「Restaurant UOZEN」の料理は「シェフのおまかせコース」(16,000円、税・サ別)のみ。ランチ、ディナーともに完全予約制で、3時間ほどかけて、じっくりと料理を満喫するスタイルで提供しています。
「ジビエは育った環境、食べていたもの、健康状態などで肉質や香りは変わるもの。ちょっと肉がかたくて野生的な臭みと雑味を感じるのがジビエだと思われがちですが、屠殺法と調理法さえきちんとすれば、とてもおいしくなる食材なんです。本物のジビエは脂もさらっとしていて、実はすごくクリーンな味わいです」
現在は厨房の隣に、解体処理場と保存所を設け、狩猟から解体処理まで行っている井上シェフ。次回は狩猟シーズンとなる冬に伺う予定ですので、ジビエ料理のストーリーをご紹介します。
Restaurant UOZEN
所在地 新潟県三条市東大崎1-10-69-8
電話番号 0256-38-4179
入店時間 ランチ11:30~11:45(土・日・祝)、ディナー18:00~18:15
定休日 月・火曜
料金 ランチ・ディナーともに「おまかせコース」16,000円、「アルコール ペアリング」9,000円~、「オリジナル ノンアルコール ペアリング」6,500円~
https://uozen.jp
2024.12.07(土)
文=大嶋律子
写真=榎本麻美