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春のごちそうは、山菜たっぷりのジビエの鍋

 ものづくりのまちとして知られる「燕・三条」には、一枚の銅板を金鎚で叩き起こして器にする、鎚起銅器という伝統的な技術が今も受け継がれています。使うほどに艶や味わいが増し育っていくといわれる鎚起銅器は、「Restaurant UOZEN」の急須や花器、調理器具としても活躍しています。

 7品目は、鎚起銅器の鍋がフル稼働する「山菜鍋」。井上シェフ自らカウンターに立ち、カウンター越しで鍋を振る舞います。味のある銅鍋もシェフによる手づくりなのだそう。

「土鍋だと火を消してもしばらくグツグツ沸いたままですが、熱伝導のいい銅鍋だと、ほどよい熱加減で止められるので、コントロールしやすいですね。あまりゲストの前で調理はしないので便利なんです(笑)」

 ふんだんに盛られたこの日の山菜は、ウルイ、コゴミ、シドケ、セリ、アサツキ、行者ニンニク、タケノコ、ミツバ、サンショウなど。ジビエには、冬場に仕留めた猪の肉と、前日に罠によって駆除されたばかりの熊の肉が並びました。

 鍋のスープは素材を引き立てる大切な存在。ジビエのコンソメと和出汁を割って、濃厚なコクと香りを持ちながら、クセのないスープに仕上げています。

「ジビエのコンソメだけだとちょっと味がかたすぎるので、やわらかくなるよう和の出汁でバランスをとりました」

 目の前で鍋に火を入れるので、立ちこめる出汁の香りをまず堪能。シェフがスープに山菜や肉をくぐらせると、また違ったいい香りが。最初に器に盛り付けて供されたのは、タケノコ、コゴミ、セリといった山菜と猪肉をしゃぶしゃぶしたもの。天然の山菜のほろ苦さと香りが、猪肉の滋味をぐんと引き立てます。これは、山のごちそう。

 ジビエと山菜を同時に味わえる「山菜鍋」には、「ダージリンファーストフラッシュ・柚」を組み合わせていただきます。

「ダージリンファーストフラッシュはダージリンの新茶で、茶葉が青々とした春摘みの紅茶のことです。地元の柚子の皮を漬け込んで、水出しにした新茶と合わせ、シェルドネのような軽くてフルーティな風味に仕上げています」

 続いての熊肉は処理がいいからか、くさみはまったくなし。脂がよくのっています。ウルイ、アサツキ、行者ニンニクといった山菜と合わせてしゃぶしゃぶに。

「仕掛けで捕獲されたばかりの月の輪熊の肉は、クリアな脂身とやわらかい赤身の食感が魅力で、脂っこくないので、ジビエ初心者にもおすすめです」

 おっしゃる通り、究極のジビエ。甘みがあって、やわらかく、とろける食感の熊肉の脂身は、コクと深みがありながらもクリアな味わい。ウルイやアサツキなどの山菜を添え、それぞれの風味と歯ごたえの濃淡を楽しめます。

 鍋の締めのリゾットは、卵の黄身がとろとろのうちにいただきます。これがのけぞってしまうほど絶品。パラリと浮かべたアサツキの花にも、しっかりとアサツキの風味あり。

 山菜鍋を堪能したら、2回に分けて供される季節のデザートでコースを締めくくります。まず1品目は冬にもお目見えした「熊アイス」。熊の脂で作ったアイスクリームは、口どけがよく、後味にキレがあります。

 デザート2品目は、お米をミルクで炊くフランスの家庭料理「リオレ」。こちらも甘味と酸味のバランスが絶妙な「越後姫」を使ったソースをかけていただきます。

「新潟県産コシヒカリをガンジー牛乳で炊いたリオレに板状のメレンゲをのせて、いちごのソースを合わせました。マスカルポーネチーズとガンジー牛乳のアイスクリームの下には、甘酸っぱいルバーブのコンフィチュールも忍ばせています」

 新潟県が開発したブランドいちご「越後姫」は、芳醇な香りとジューシーな食感が人気。春らしさを盛り立てる立役者として、ひんやりスイーツに彩りを添えます。

 自家菜園のハーブティ、佐渡の野草をブレンドした「さどのめぐみっ茶」、「yamaga coffee」のコーヒーの3種から選べる食後のドリンクは、カウンターでもソファー席でも好きな席でいただけます。

 春の野草には苦味の強いものが多く、子どものころ苦手だった人も、人生のほろ苦い味がわかるころには、むしろ美味として賞味するようになるから面白いもの。味の嗜好も年齢を重ねるとともに歩むものなのかもしれません。

 「Restaurant UOZEN」で供される山菜とジビエを使った春のメニューは、複雑な風味が感じられるのに、繊細な素材の味わいを引き出したものばかり。ノンアルコールのペアリングでも複雑な味の重奏を生み出し、奥行きのある料理をいっそう印象的なものにしているようでもあります。

 「Restaurant UOZEN」の四季を楽しむフルコースも、次回でひと巡り。シェフ自ら佐渡沖まで船を出すという夏の時期は、日本海の魚介がいただけそうです。

Restaurant UOZEN

所在地 新潟県三条市東大崎1-10-69-8
電話番号 0256-38-4179
入店時間 ランチ11:30~11:45(土・日・祝)、ディナー18:00~18:15
定休日 月・火曜
料金 ランチ・ディナーともに「おまかせコース」16,000円、「アルコール ペアリング」9,000円~、「オリジナル ノンアルコール ペアリング」6,500円~
https://uozen.jp

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2025.07.25(金)
文=大嶋律子
写真=佐藤 亘