それから5年後……

それから5年後。無事ローンも返済し、大学の先輩と籍まで入れていたAさんのSNSに、同じく結婚したというOさんからのフォローとメッセージがありました。
バイト時代のことを懐かしく話す中であの留守電に話が及ぶと、なんとOさんにも同様の留守電と封筒が届いたというのです。
そのうち、一度再会を兼ねてあの旅館を訪ねてみよう、ということになりました。
互いに変わった印象、変わらない話し方などで盛り上がった2人は旅館へ向かおうとバスを待っていると、居合わせた老婦人にこんなことを言われたのです。
「あの旅館はねえ、土砂崩れに遭ったのよ。従業員みんな見つからなかったんだから」
突然のことに戸惑いながら現地に行くと、老婦人の言葉とは裏腹に土砂崩れにあったとはとても思えない様子で旅館はそこにありました。ただ、「立ち入り禁止」のテープが貼られ、すっかり廃旅館と化していたのです。
しばらくすると自転車を漕ぐ駐在さんを見かけたので、Aさんたちは声をかけました。
「あー、この旅館はねえ、土砂崩れに遭って従業員みんな見つからなかったのよ」
“そういうことにしようとしている” ――2人ともそう思ったそうです。
「Aさん、実はあの最後にバスに乗った時怖くて言えなかったことがあるんです」
「え、どんなこと?」
「『どうせ振り出しから間違っていたのだから。遅かれ早かれこうなるのよ。あなたたちのせいじゃないわ』って、ずっと聞こえていたんです」
その旅館は、今も取り壊されずに残っているそうです。
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禍話
2025.08.09(土)
文=むくろ幽介