今年、ブランド誕生25周年を迎えた「ピエール・エルメ・パリ」。フランスにも先立って東京・千代田区のホテルニューオータニ(東京)内に開いた、世界第一号店の衝撃は、今も多くの人の心に鮮やかな記憶として刻まれています。
何よりも味覚を追求し、卓越した創造性や豊かな感性、高い美意識、妥協のないディテールへのこだわりによって生み出される「オート・パティスリー」(高級パティスリー)は、数えきれないほどの驚きと感動をもたらし、輝きを放ち続けてきました。
その先頭に立ち、フランスのみならず世界のパティスリー界を牽引し続けるピエール・エルメさんが、2023年9月に来日。
エルメさんがこっそりスペシャルなお土産を携えて向かったのは、東京・銀座のレストラン「FARO(ファロ)」です。アポイントのお相手は、このレストランでシェフ・パティシエを務める加藤峰子さん。互いのデザートとケーキ、マカロンを味わい、紡ぎ出される会話には、自身の哲学を明確に持ち、未来を見据えながらクリエーションを生み出していく、作り手としての共感と情熱があふれていました。
後篇では、エルメさんから、ピエール・エルメ初のプラントベースのお菓子を加藤さんへサプライズプレゼント。
ついに完成した100%植物性のマカロン
エルメ 私からは、加藤さんのためにヴェジタルな(植物性の)お菓子を用意しました。
まずは、「マカロン・ヴェジタル」をどうぞ。アーモンドのプラリネの「アンフィニマン プラリネ ノワ ド ペカン」と、チョコレートの「アンフィニマン ショコラ」、フランボワーズとピスタチオの組み合わせの「モンテベロ」、そしてバニラとスミレ、カシスの組み合わせの「アンヴィ」です。
加藤 スミレが大好きなので、まずはアンヴィをいただきます。私にとっては子供時代を思い出す香りです。(食べて)うん、香りがすっきりしていて、めちゃくちゃおいしいです。
エルメ 卵白の代わりに、ジャガイモのプロテインを使っています。やってみて分かったことなのですが、すべて植物性の素材を使い、卵もバターもクリームも使わないことで、主役となる素材それぞれの香りをより引き出せると感じました。
加藤 あ、それは私も同感です。卵や牛乳、生クリームを使うという従来の考えに縛られないで作っていくと、結構面白い結果が出たりしますね。
エルメ そうですね。
ピエール・エルメが植物性のお菓子を手掛けるのは画期的なこと
加藤 エルメさんのように影響力のある方が、こうした植物性のお菓子を手掛けていらっしゃるのは、本当に素晴らしいことだと思います。流行だとか、健康にいいとか、そういうことではなく、環境負荷の少ないものをいかに作るかということを考えるのは、今、パティシエとして必要なことですから。
エルメ 私にとってはどちらかというと、クリエイティブなチャンスにもなっています。
加藤 本当にそうですね。私は5年くらい前からヴィーガンのお菓子を作り始めて、最初は全くできなかったのですが、今は、何もないところから開拓することを楽しんでいます。
エルメ そうですね。私も3年くらいいろいろ研究しました。
加藤 そうだったのですか!
エルメ さて、これは2020年に「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」とコラボレーションしたのをきっかけに、私が初めて作ったヴェジタルなお菓子です。
名前は、「タルト ローズ デ サーブル」(「ローズ デ サーブル」はフランス語で、“砂漠のバラ”の意味)といいます。組み合わせとしては、パート・シュクレ(タルト生地)、アーモンドのプラリネと、ローズとミルクチョコレートのガナッシュ、アーモンドのなめらかなクリーム。上にちりばめているのは、リヨン名物として有名なプラリネ・ローズ(赤いプラリネ)です。
加藤 先ほどの私のバラのデザートと交換という感じですね! わー、すごい! 美しい!
エルメ 加藤さんがバラだけではなくいろいろな味を組み合わせて一つの味を表現していたのに対して、私はどちらかというとバラをそのまま生かして味を構成しています。パート・シュクレも植物性なので、切るときは普通のものに比べてちょっと固く感じるかもしれません。でも、口に入れるとほとんど差はわからないと思います。
加藤 はい、サクッとしています。
エルメ ブラジル産のカカオを使い、アーモンドミルクでつくられたチョコレートのガナッシュから上品なバラの香りが広がり、アーモンドのローストされた香りやキャラメリゼされた香りが一体となって調和して、食感のコントラストとともに楽しんでいただけるかと思います。
加藤 とても満足感がありますね! おいしいです。
2023.11.08(水)
文=瀬戸理恵子
撮影=志水 隆