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 今年、ブランド誕生25周年を迎えた「ピエール・エルメ・パリ」。フランスにも先立って東京・千代田区のホテルニューオータニ(東京)内に開いた、世界第一号店の衝撃は、今も多くの人の心に鮮やかな記憶として刻まれています。

 何よりも味覚を追求し、卓越した創造性や豊かな感性、高い美意識、妥協のないディテールへのこだわりによって生み出される「オート・パティスリー」(高級菓子)は、私たちに数えきれないほどの驚きと感動をもたらし、輝きを放ち続けてきました。

 その先頭に立ち、フランスのみならず世界のパティスリー界を牽引し続けるピエール・エルメさんが、2023年9月に来日。

 エルメさんがこっそりスペシャルなお土産を携えて向かったのは、東京・銀座のレストラン「FARO(ファロ)」です。アポイントのお相手は、このレストランでシェフ・パティシエを務める加藤峰子さん。互いのデザートとケーキ、マカロンを味わい、紡ぎ出される会話には、自身の哲学を明確に持ち、未来を見据えながらクリエーションしていく、作り手としての共感と情熱があふれていました。

 前篇では、加藤シェフからエルメさんへ、デザートを通して伝えるメッセージをどうぞ。

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美しいデザートから伝わる“環境問題”

加藤 初めまして。エルメさんをお迎えできて、とても光栄です。

エルメ 初めまして。私もお会いできてうれしいです。

加藤 今日は、私がこちらのレストランでお客様にお出ししているもののなかから、3つのデザートをエルメさんのためにご用意しました。日本ならではの素晴らしい香りと、私が日頃取り組んでいる環境保護の気づきにつながる味わいを楽しんでいただければと思います。

エルメ 楽しみです。

加藤 一皿目は、「薔薇と檜そして扁桃」というヴィーガンのデザートです。ヒノキの葉と幹を使って、森の中にいるような味わいを作りたいと思い、チャレンジして仕上げました。

 日本は国土の約67%が森林で、その大部分がスギやヒノキ林なのですが、60年くらい放置されたままになっているんです。そうすると、スギやヒノキといった背の高い針葉樹が空を覆ってしまい、下草が生えなくて、それを食料とする動物たちや他の植物が生きられず、生態系が壊れてしまいます。

 そして、何の利益も生み出せず、災害に弱いエリアになってしまっている。だから、そのヒノキを使って何かできないかと思ったのです。

エルメ なるほど。

エルメ (一口食べて)おいしい。とても繊細ですね。ジュレは?

加藤 イタリアから取り寄せた在来種のアーモンドに水と葛と寒天を混ぜたものです。

エルメ ブドウは日本のものですね?

加藤 はい、シャインマスカットです。

エルメ これはシャーベットですか?

加藤 はい、アーモンドのシャーベットで、日本の在来種のハーブである橘の新芽とレモングラスで香りを付けています。

エルメ ヒノキはソースの中ですね。本当にちょうどよい微妙なバランスが取れているんですね。ヒノキはすごく強くなるとよくないけれど、おいしいです。

加藤 ありがとうございます。ヒノキはご存じでしたか?

エルメ 樹木としては知っていましたが、味としては初めてです。どうやって使っていますか?

加藤 まず、こちらは和歌山県の森の間伐材です。ヒノキは幹の白いところをカンナで薄く削ったものを使い、ローズ、バニラ、オレンジ、ライム、レモン、バジル、フランボワーズと合わせてソースを作っています。

エルメ (削られたヒノキを目の前にして)これをお湯につけるのですか?

加藤 いえ、それを蒸留してエッセンスにしたり、そのままソースに漬けて香りを移したりしています。

エルメ (手に持って香りをかいで)すごく香りがいいですね!

2023.11.08(水)
文=瀬戸理恵子
撮影=志水 隆