この記事の連載

 暑かった夏を越え、実りの秋がやってきました。

 秋といえば真っ先に頭に浮かぶのは、やっぱり栗!

 シンプルな焼き栗から、栗おこわ、モンブランに至るまで、栗のおいしい楽しみ方はいろいろ。さらには、ジェラート、かき氷も! ひときわおいしい栗スイーツを見つけるべく、栗の生産量日本一を誇る茨城県のなかでも名産地として知られる、笠間市を訪れました。

 #1は、手間をかけた栗のお菓子を食べられて、なおかつ古民家の風情にうっとりするパティスリー「栗のいえ」をご紹介します。

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数々の名店で腕をふるったパティシエが故郷・笠間へ

 まず訪れたのは、2021年、笠間市のなかでも古くから栗の栽培が盛んな岩間地区にオープンした「栗のいえ」。築約130年という古民家の趣も素敵な、デザートとスイーツのお店です。

 シェフを務めるのは、東京・尾山台「オーボンヴュータン」で修業し、渡仏。「ピエール・ガニェールパリ本店」でスーシェフを務め、帰国後は東京・赤坂のレストラン「ピエール・ガニェール」、さらには中国・マカオのホテル「The 13」でシェフ・パティシエとして活躍した竹内孝弘さん。

 生まれ育った故郷を少しでも盛り上げたいと、妻のるみこさんとともに笠間に戻ってお店を開くことを決めたといいます。

絞るのではなく「削る」。栗の風味が最高潮

 スペシャリテはもちろん、笠間の栗を使った「愛宕のこぼれモンブラン」! モンブランといえば“絞られた”ものと思いきや、運ばれてきたお皿には、ふわっふわ、ほわっほわの“削られた”栗のペーストがこんもり山のように。その姿に、思わず歓声をあげずにはいられません。

 「栗のペーストをたっぷり削り、その上に栗の甘露煮をチーズおろしで削って仕上げています。栗のクリームやペーストをぎゅっと絞り出して圧縮してしまうよりも、空気に触れる面を多くしてふわふわに仕上げるほうが、香りがより花開き、栗のおいしさを最大限に楽しめる。つくりたてで味わえば、なおさらです」と、竹内さんは語ります。

 スプーンでそっとすくって口に運ぶと、栗の風味がふわりと立ち上がり、なめらかな口溶けとともに増幅していきます。

 中にはとろっとした生クリームと、コクがありつつすっきりしたマスカルポーネのアイスクリームが隠れていて、自家製の渋皮煮とメレンゲがアクセントに。

 それはまさに、笠間の上質な栗と、レストランで培われた技術と感性の出合いによって生み出された、「ここでしかつくれず、ここでしか味わえないモンブラン」(竹内さん)。力強さと洗練された味わいに心を射抜かれます。

2023.09.27(水)
文=瀬戸理恵子
撮影=橋本 篤