この記事の連載
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大海原を見守る白亜の灯台
灯台の中ほどはまるで温室のように室内が見え、そこに巨大な目にも似た薄緑色のレンズが輝いていた。午前に見学した高知灯台では、外からレンズを見ることはできなかったが、こちらの灯台はまずレンズが在り、その周囲に櫓が組まれたのではと思われるほど、そのガラスの煌めきは圧倒的だった。
そして何より、レンズが大きい。まるで一つ目の巨人がたたずんでいるかのようだ。
灯台の入り口には、高知灯台でもお目にかかった高知海上保安部の奥山正さんがお待ちくださっていた。迫力ある灯台に目を奪われっぱなしのわたしに、
「この室戸岬灯台のレンズは圧倒的でしょう。まずはレンズ室に上がりましょうか」
と奥山さんはにっこりなさった。
室戸岬灯台が初点灯されたのは、明治三十二年。その歴史を物語るかのように、円柱状の塔内には雰囲気のある鉄製の階段が巡らされていた。レンズ室は四階で、三階の中央には鉄の小部屋が設えられている。これは水銀槽式回転装置といい、かつてはここに落とされた錘を人力で巻き上げることで、レンズを回転させていたという。
「わしが小さい頃は、巻き上げの手伝いをしたこともありますよ」
と、島田さんが側からお話しくださる。最御崎寺の息子として生まれた島田さんは、灯台そばの官舎に暮らす灯台守一家の子どもたちと同じ学校に通っていた。その縁もあって、小さい頃からこの灯台にも出入りしていらしたそうだ。
2024.02.15(木)
文=澤田瞳子
写真=橋本 篤
出典=「オール讀物」2024年2月号