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 日本を代表する浮世絵師、葛飾北斎の娘で、北斎の右腕として活躍した女性浮世絵師・葛飾応為(おうい)。「美人画では適わない」と北斎が認めるほどの才能をもちながら、わずか数十点の絵しか残っておらず、知名度もそれほど高くはない。

 自らの意志で北斎と共に生きる選択をした応為を演じた長澤まさみさんに、自分らしく生きることについて聞いた。

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――応為にとって絵を描くことは何だったと思われますか?

長澤まさみさん(以下、長澤) ひと言で言えば、「好き」。ただそれに尽きると思います。

 江戸時代に、女性が絵だけを描いて生きるというのは、誰もができたことではなかったはずです。やりたくてもできない人のほうが多かったと思いますが、それをやりとげるほどに応為は絵を描くことが好きで、やりとげられるほど自由に生きていたのだと考えられます。

 仕事とか自己鍛錬のためよりも、好きという想いが大きかったからこそ、描き続けられたのではないかと、応為を演じて想像しました。

お気に入りのシーンは?

――応為の生き方が、長澤さんご自身のキャリアと重なるところはありますか?

長澤 私はまだ自分が本当にこの仕事が好きなのかどうか、測りかねているところがあるんです。好きが突き抜けている応為とは、とても比べられるものではありません。

 もちろん、俳優の仕事は好きですし、いいお芝居を観ると「自分もこういう作品に出てみたい」「こんなお芝居がしてみたい」とは思います。でも、「自分には芝居しかない」という情熱がないんです。ですから、「自分には絵しかない」と言える応為をどこか羨ましくも感じました。

――応為を演じたなかで、お気に入りのシーンがあれば教えてください。

長澤 本作では、応為がガシガシ歩いているシーンが多く出てきます。地味なシーンですが、応為らしさが感じられるシーンで、すごく気に入っています。

 応為が絵を描いているシーンも好きです。応為にとっては、絵を描くことが日常なので、そのシーンがうまく日常に溶け込み、さりげなく毎日のルーティーンになればいいと思って、絵の練習もさせていただきました。

2025.10.17(金)
文=相澤洋美
写真=榎本麻美
ヘアメイク=スズキミナコ
スタイリスト=百々千晴