「大黒屋」 1964年(北村薫、宮部みゆき・選)
北村 今回作品を持ち寄って、特に嬉しかったのは、捕物帳について宮部さんと意見が合ったことです。
宮部 ばっちり合いましたね。私は「大黒屋」に登場する岡っ引きの姿が印象に残りました。最初にちらちらと出てきて、「若そうだし、チョイ役かな」と思っていたんです。ところが、事件が本格化するにつれて、彼の顔つきが変わってくる。岡っ引きがしっかりと活躍する捕物帳である点にまず惹かれました。

北村 私は、この作品は堂々たる本格ミステリだと思うんです。怪しい男に加賀訛りがあるとか、凶器が鍬であるだとか、関心を引くような謎が連発される、ミステリの醍醐味が詰まっています。最近、友人と「大黒屋」論争というものをしたんですよ。
有栖川 ご友人も面白かったと?
北村 ミステリクラブ時代の友人なのですが、彼は鋭く追及してくるんですね。まず、鍬については鍛冶屋から刃だけ買えばいいだろう、と。対して私は「店を変えて少しずつ鍬を買うのはいいが、刃だけ大量に買うのは不自然だ」と答えました。
有栖川 ははあ。大真面目にやり合ったわけですね。
2025.08.10(日)
文=有栖川有栖、北村 薫、宮部みゆき