震災を経て変わった、今後の展望
――さて、30歳になって、たとえば映画監督を目指すなど、今後の目標はありますか?
今までの仕事の仕方は、どんどん自分の本当にやりたい世界に展開していた、と思うんですよ。でも、僕の中で今年、震災が起きたというのは大きい出来事でした。自分のファンクラブに入っている18歳のコが亡くなったんです。それを知ったとき、年齢というのは過ぎた時間というより、生かされてる時間とわかったし、役者として自分のしている表現は、震災直後に何の力にもなれないと思った。ミュージシャンの方達が震災直後に自発的に動かれている様子を見て、大きな差を感じたんです。これまでは、僕は音楽が好きだけど、役者が歌を歌うのはものすごく理不尽だと感じていました。でも、震災を経て、自分は自分にできることを最大限にやっているんだろうか、という疑問が湧いた。今まで自分がやってきて、これからやろうとしていることは、自分がこうなりたい、こう見られたい、という自分のための表現でしかない。でも、そんな楽して生きてたら絶対ダメだなと思ったんです。
――8月の歌手としてのメジャーデビューというのは、そういう意味もあったのですか?
自分の居場所を狭めず、むしろ恥をかくことを恐れずに、いろんな表現をする。これをテーマに30代を過ごしていけば、40代がもっと自分が望ましいというか、内容のある時間になるような気がするんです。自分が生かされた時間で、できることをまだしていないし、恥をもっとかきたい。以前、尊敬する原田芳雄さんが「映画で身体を壊して、音楽で自分を癒す」とおっしゃっていて、音楽との距離の取り方など、自分が目指すところはそこだなと……。現在、周りにいるアーティスト仲間にも声をかけていますし、被災地でライブができるように…。つまり、自分個人としての将来の目標より、優先すべきものが見つかったんですね。
斎藤工(さいとう・たくみ)
1981年8月22日東京都生まれ。184 cm・A型。高校1年のときにモデルとしてデビューし、2001年『時の香り~リメンバーミー~』で俳優デビュー。その後、着実にキャリアを積み、09年には『カフェ・ソウル』『悪夢のエレベーター』など、10本の映画に出演。現在、主演ドラマ「QP」(日本テレビ)が放送中。2012年春には『逆転裁判』が公開予定。
衣装協力:DIGAWEL, URBAN RESEARCH
『明日泣く』
文芸誌の新人賞を受賞したものの、その後スランプに陥り、賭けマージャンに明け暮れる武(斎藤工)。ある日、ミュージシャンの島田に連れられて入ったジャズクラブで、彼は高校の同級生で、ジャズピアニストのキッコ(汐見ゆかり)と再会。無邪気に男たちを翻弄する彼女に、武は複雑な感情を抱いていく。
asunaku.com/
11月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか、全国順次公開
(C) 2011プレジュール / シネグリーオ
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2011.11.04(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Asami Enomoto
styling:Kazuyo Koiso
hair&make-up:Shinji Hashimoto(atelier ism(R))