役者をやることは、全裸になることと似ている
――さて、俳優活動10周年を迎えたわけですが、個人的に転機になった作品は?
未だに俳優というものを意識できないですね。明日のことなんか、わからない仕事ですし、究極のフリーターだと思っていますから。その割にはチヤホヤされる場面もあったり、まったくそうじゃない場面もあったり、本当に軸がしっかりしてないと転落してしまう場所にいるな、と思っています。未だに自分の作品を見ると反省ばかりで、客観的に「こいつは使えないな……」と思ってばかりですよ。
――それでは現在、俳優の醍醐味みたいなものは感じられていますか?
今朝までドラマ「QP」を撮っていたんですが、全裸で銃を握るというシーンを撮ったとき、“前バリ”をすることに抵抗を感じたんですね。なぜかというと、役者をやることは全裸になることと意識が似ているから。自分のカッコいい部分を見せるんじゃなくて、恥部をさらすようなもの、それが成り立つ職業というのが、役者の最大の魅力だと思うんですよ。モデルとのいちばんの違いは……作品や役柄にもよりますが、いい側面をみんなで集結して作る“瞬間の美”というより、むしろ生っぽさの部分。それは昔ハマっていたATGの作品にあったギラギラした部分や、理屈じゃない匂いみたいなもの。それがこの職業の肝だと感じたんですね。
――ちなみに初めて、そのようなことを感じられた作品はあるんですか?
強いていうならNHKドラマ「チェイス~国税査察官~」ですかね。自分がもっともやりたかったテイストの作品で、役柄的にも有難いポジションでの参加だったんです。自分は監督にアイデアを出すタイプではないんですが、このときはパーマをかけたり、肌を黒くしたりして、演出以上の役作りをしました。そして、そんな自分の初めての思惑が一部の視聴者の方に届いた作品でした。それまでは“仕事が来ました。じゃあ、やります。それで、現場に行きます”って流れだったんですが、あの頃から「俳優という職業は仕込む側でもある」と思えるようになりましたね。父親の背中に見たように、みんなでアイデアを出し合って、各部署のプロフェッショナルとして、ひとつの芸術を作ろうという意識に変化したんです。それに、役者は使ってもらって初めて成り立つわけで、名前や立場がなくても、その場所から狙えたり、放てるものがある、ということに確信を得たんです。
2011.11.04(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Asami Enomoto
styling:Kazuyo Koiso
hair&make-up:Shinji Hashimoto(atelier ism(R))