原作者の夫人から最大の賛辞を受けた最新作

――さて、最新主演作『明日泣く』についてですが、実在した無頼派・色川武大(阿佐田哲也)という人物を演じるにあたり、どのような役作りをされましたか?

 色川さんのスゴさは父親から聞かされているので、真似しようとしてもできるもんじゃないと思いました。だから逆に、当時の時代感だったり、無頼派たるはということは、なるべく無視しました。舞台である昭和30年代は、皮膚感覚では知らないけれど、そこにタイムスリップするというよりは、自分が役柄として受けたものだったり、衣装やメイク、共演者、監督の作ってくれた空気を感じて、現場にいることを優先した方がいい、と思ったんです。変に調べたりすると、今までの経験上、その思惑が監督や観客に届かないことが多いんですよ。それは時代劇を演じるときと一緒の感覚かもしれませんね。

――かなり早い段階から、本作の製作に携わられていたと聞いていますが。

 普通、製作段階が10段階あったとしたら、役者が参加する段階は7ぐらいだと思うんです。でも、この作品は2か3ぐらいから参加させていただきました。だから、というわけじゃないですけど、どんなハードなスケジュールでも、現場で疲れた、とか言っていられない。みんなで走り抜けようという気持ちが強かったし、チームワークがいいんです。撮影後の打ち上げが、史上初の5次会まであったぐらい仲良くなれた。そして、何より色川夫人が試写を見て、とても喜んでくれたんです。「色川が生きてたら、本当に喜んでます。あなたが演じてくれて……」という言葉をいただいたんですが、これは役者にとって、最大の賛辞。自分の代表作という括りにしたくないぐらい、特別な作品になりましたね。

――25年ぶりの新作となった内藤誠監督の演出は、どのような感じだったのでしょうか?

 内藤さんは、撮影現場で演出しないんですよ。それは内藤さんの場合、キャスティングした段階で、演出が済んでいるから。「自分自身として役を捉えて、現場に行けばいいんだ」という言葉じゃないメッセージなんですね。でも、それは役者にとっていちばん重圧のある監督のメッセージでもある。「QP」の三池(崇史)さんの演出も、これに近いと思いますね。

2011.11.04(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Asami Enomoto
styling:Kazuyo Koiso
hair&make-up:Shinji Hashimoto(atelier ism(R))