子ども時代の感情を呼び起こす

綿矢: あと、「光のとこにいてね」というフレーズですね。スマホも持たず、簡単には会えないふたりの待ち合わせ場所、それも一瞬で消えてしまうような。子どもの心細げな心情がとてもリアルなのと同時に、自分も子どものときにこうやって待ち合わせをして結局会えなかったことあったなとか思い出して……。一穂さんは書かれるときに、子ども時代のことを思い出しましたか? それともある程度俯瞰した気持ちで書かれたのでしょうか?

一穂: 子ども時代の感情には、かなり引っ張られましたね。小学校に上がる前は親と一緒じゃないと友達に会えなかったり、お泊まり保育が夢のように嬉しかったり。そういった友達に対する飢餓感は、子どものときの方が強いですよね。私の母は働いていてママ友がいなかったので、親になったら友達はいなくなるんだな、と漠然と思っていて、そういう子どもの眼差しみたいなものは今でも結構覚えていたりします。

綿矢: 私も団地住まいだったんですけど、『光のとこにいてね』の第一章で書かれてたような小さい頃の記憶はほとんど消えかけている気がしますね。そういえば最初、結珠は果遠に一線を引いて警戒していますよね。あれは彼女なりに貧富の差や階級差みたいなものを感じていたからでしょうか?

一穂: 果遠と自分は育ちが違うらしい、ということは子供なりに感じていたのですが、同時に賢い子なので、言ってはいけないことも何となくわかっていたんだと思います。

綿矢: あの辺りはすごくリアルでした。ただ純真なだけじゃなく、相手と自分の立場を客観的に見ている。女児って、持ち物とかで結構そういうところを見ていますよね。

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