「当時は高校生でもブランド品を持っているのが当たり前」綿矢りさが見つめた90年代の飢餓感と就職氷河期世代の焦燥。綿矢りさ×一穂ミチ対談【前編】〉から続く

 長い年月にわたる、ふたりの女性の激しくも純粋な愛のかたち――。

 ともに女性同士の関係性を描いた大作長編を発表した、綿矢りささんと一穂ミチさん。

 各々の作品のことから創作の話まで、初めての対談をお送りします。(全3回)

こういう物語が読みたかった!

綿矢: 『光のとこにいてね』を読み終えたとき、本当に結珠と果遠の愛の強さを感じました。もちろん読んでいるあいだもふたりの愛を意識していたつもりだったけど、ふたりの関係が恋愛なのか友情なのか、最後までわからなくてドキドキしていたんです。むしろ、友達に近いものだと思っていました。「果遠のほうが火力が強めだな」とか。それに第三章ではお互いに家庭を持っていますから、さすがにこれ以上進展しないのかなと思っていたら、最後の最後ですごい展開が待っていて、「こういう物語が読みたかった!」と心の中で声を上げました。直接な描写はなかったけれど、ほのかにずっと燃え続けていた愛の炎に気づかされた感じです。

一穂: うわぁ、綿矢さんにそう言っていただけてすごく嬉しいです。

綿矢: 特に印象的だったのが、高校で再会した果遠がすごく綺麗になっていたところです。果遠は、いい出会いに恵まれていますよね。結珠とかチサさんとか、夫の水人とか。容姿に惹かれるのではなく、彼女が困っているときに手を差し伸べてくれる人に出会えているのがいいなと思いました。そして、いい出会いをしているからこそ、幸せになってほしいという気持ちで読んでしまう。

一穂: どちらかというと果遠を見守る視線で読んでくださったんですね。

綿矢: そうですね。結珠が乗り移っていたような気がします(笑)。

『光のとこにいてね』あらすじ

 うらぶれた団地の片隅で出会った小学2年生の結珠と果遠。 

 正反対の境遇に育ちながら、同じ孤独を抱えるふたりは強く惹かれ合うも、幸せな時間は唐突に終わりを迎える。
 8年後、名門女子校で思わぬ再会を果たしたふたりは――。

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