中学生は忙しい
綿矢: 結珠と果遠は、生まれや育ち、性格などがまったく違っていてふたりとも魅力的なんですけど、団地、つまり果遠が暮らす貧しい側の描写に特に惹かれました。あのあたりは取材をされましたか?
一穂: いえ、私も大阪の下町で育ったので団地だったり、町に野良犬が普通にいるような昭和の終わりの猥雑な雰囲気に馴染みがあったんです。「小学生のときにああいう家の子いたな」みたいな。服装や家庭環境が、まだ今より洗練されていなかった時代の記憶ですね。夏休み明けにクラスの子が「ディズニーランドに行ってきた」と聞くと、「すごい、東京に行ったんだ!」とヒーロー扱いだったり。
綿矢: 確かに! 関西だとディズニーランドに行ける家は家庭円満とある程度の財力の象徴でしたよね。
一穂: 取材という意味では、第二章を書くにあたってお嬢様女子校出身の知り合いに話を聞いたんです。そうしたら、私が勝手に想像していたスクールカーストのあるような世界ではなく、みんなおっとりして良い子で……。だから、果遠みたいな子も普通に受け入れられている雰囲気の学校にしました。
一方で『激しく煌めく短い命』の第一部は中学校が舞台なので、高校生よりも感情がむき出しですよね。綸と久乃が学校ではあまり話さないところや、久乃が綸の友達から牽制される感じがすごくリアルで、「中学校ってこうだったな」と思い出しました。
綿矢: 私も自分の中学時代を思い出しながら書いたので、平成の公立中学校の感じがリアルに出せていればいいなと思っています。
一穂: 塾では話すけど学校では話せない、みたいな関係性ありましたよね。それにしても、中学生ってこんなにも忙しかったことにびっくりしました。
綿矢: そうなんですよね。母校の中学校がブログをやっていて、行事の写真や報告を月に一度くらいアップしてるんです。それも参考にさせてもらったんですけど、改めて見ると本当に行事が多くて。その準備期間もふくめて、3年間盛り沢山で楽しそうだなって思いました。
