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志を引き継いで……

 かくして、歴史文書館で、しっかりと「改心灯台」の話を聞いてから辿りついた現在の掛塚灯台。

 天竜川の河口近くのその灯台は、正に荒井信敬の強い志によって建てられたものだということを痛感する。

「この海で、自分と同じように船の難破によって運命が狂わされる人がいないように、祈っていたんですね」

 しみじみと感じつつ、帰途につこうとした私は、そこで再び、

「あのはしごを降りるんでしたね……」

 ということを思い出す。

 再び、ヘルメットのベルトをぎゅっと締め直し、そこから恐る恐る、外側のはしごを下って行く。軍手をしてもなお手がかじかみながら、ともかく無事に地面に足が着いた時、ようやく、ほうっと吐息をついた。

 地面について改めて見上げると、その佇まいは何とも静かで落ち着いている。実物こそ見ることが出来なかったが、木造の「改心灯台」の精神を、この白亜の灯台も引き継いでいるのかもしれない。そんな風に思った。

天狗が繋ぐ山と海

 掛塚灯台を後にした取材班一行は、車を走らせた。

「せっかくなら、浜名湖まで行きましょうか」

 何が「せっかく」なのかは分からないが、何となくここまで来たら、浜名湖を見たくなった。

 大きな湖を眺めつつ、館山寺への階段を昇る。

 本堂に辿り着き、お参りをすると、そこにドンと鎮座する天狗の巨大な面がある。

「お、ここにも天狗」

 今回の旅では、灯台と共によく出くわして来たのが天狗である。

2024.08.02(金)
文=永井紗耶子
写真=橋本篤
出典=「オール讀物」2024年7・8月号