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山の恵みと志の灯台
竜洋郷土資料館で見た、「掛塚祭」の紹介によれば、灯台からほど近い貴船神社の大きな祭で、壮麗な神輿や屋台が出るらしい。その先頭を行くのが、竹馬という神事。江戸時代から、選ばれた若者が猿田彦という神に扮し、天狗の面をつけて、神輿の通る辻でバレンと呼ばれる竹のささらを打ち付けて穢れを払う。祭りのお囃子は県の指定文化財であるという。
「あと、あそこにも天狗がいましたよね。可睡斎」
掛塚灯台に行く前日、袋井市にある古刹、可睡斎に出向いた。応永八年(1401)に開山したこの寺は、その後、十一世となる仙麟等膳和尚の時代には、徳川家康が過ごしたことでも知られる。名前の由来となったのは、居眠りをした和尚に対して、家康が「和尚、睡る可し」と言ったことであったとか。
その境内にも秋葉総本殿と呼ばれる本殿があり、階段の両脇には天狗が睨みをきかせているほか、あちこちに天狗の面があった。
「秋葉山との繋がりなんでしょうねえ」
秋葉山は天竜区の赤石山脈の端にある山である。古くから山岳信仰の地でもあり、山伏たちが行き交った場所でもあった。
火伏の霊験で知られる秋葉大権現は、江戸時代にも広く信仰を集め、遠州秋葉参りが流行したらしい。更には、日本各地に秋葉権現が祀られ、秋葉神社が広がっていったのだとか。
「灯台の近くにも、秋葉常夜灯がありましたよね」
灯台の近くにあった石造りの常夜灯は、海から山へと続く街道沿いに設置されているという。
「あと確か、御前崎の灯台の近くにも、秋葉の名前の公園がありましたよ。灯明堂が出来る前には、その参道の灯りを、船の目印にしていたって、お話がありましたよね」
館山寺の山を登り、高台から雄大な浜名湖の景色を改めて眺める。
「山岳信仰の天狗と、海の近くの掛塚の辺りの天狗、そしてこの浜名湖の天狗……なんというか、山と海って、繋がっているんですね」
山で伐られた木を、筏に組んで天竜川に流していた木挽きの人々がいた。そして、それを売るために、江戸へと運ぶ廻船問屋の人々がいた。それによって湊は活気に溢れ、船が行き交うからこその事故もあった。
近代の灯台を巡る旅をしていたのだが、思いがけず、大昔から山岳信仰の象徴となっていた天狗と行き会った。
「海や港が、そこだけで成り立っているわけではないんですね」
遠く離れているかに見える山と海。
しかし、海沿いの町の発展と、山の営みは繋がっている。そのことが天狗を介して見えて来た。
「海と山を、天狗が繋いでいるみたい」
灯台の灯りが照らす海を、遠く秋葉山から眺める天狗の姿があるような気がした。
掛塚灯台(静岡県磐田市)
所在地 静岡県磐田市駒場
アクセス 東名高速浜松ICより車で約20分
灯台の高さ 16.1
灯りの高さ※ 25
初点灯 明治30年
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。
海と灯台プロジェクト
「灯台」を中心に地域の海の記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/
◎海をより安全に楽しむために!
日本財団が企画・統括する「海のそなえプロジェクト」では、海や川で過ごすことが増える夏の行楽シーズン到来に先駆け、「海のそなえシンポジウム」を開催。これまでの水難事故対策を見直し、正しく、有益な対策を施すために、異業種・異分野を含む有識者らが議論を行いました。同プロジェクトの公式HPでは、海を安全に楽しむための情報を発信しています。
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その土地の物語を読み解く
“灯台巡り”の旅へ
2024.08.02(金)
文=永井紗耶子
写真=橋本篤
出典=「オール讀物」2024年7・8月号
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