重松さんと遠山さんのお弁当を拝見

重松:さて、そろそろお弁当のテーマについてお話ししたいと思います。テーマは、「トラッドマインド」。これは造語で、我々の商品開発の基本的な理念です。ユナイテッドアローズは常に歴史と伝統に対して強い意識をもっています。だから、お弁当のテーマもこれしかないと思いました。

遠山:過去を理解しながら……。

重松:それを進化させて今の時代にフィットするようなものにする。ただ伝えるだけでは、伝承になってしまうので。

遠山:伝統と革新ですね。

重松:伝統というのは革新の繰り返しの結果としてしか生まれない。創業したときには、我々は「進化する老舗」という言い方をしていました。でも、これは穿った見方で、実は正しくなかった。これは「虎屋」の社長・黒川光博さんの言葉ですが、「伝統というのは進化の上にしかつくりあげられない」んです。だから、「進化したら老舗」というのが正しいんだなと今は思っています。というわけで、お弁当も子どものときから食べているものを持ってきました。

遠山:お母様のお弁当を再現されたんですか?

重松:もともとはそうですが、これはかみさんがつくった、いつもランチに食べているものです。なかなか仕事で夜、自宅でごはんを食べられないので、お弁当を通してランチの時間にかみさんとコミュニケーションをとっています。私が勝手にそう思っているだけで、かみさんはそうは思ってないかもしれませんが……。

会場:(笑)

遠山:(お弁当を見て)おー、おにぎりですね。

重松:パッと食べられるようにおにぎりにしてもらうことが多いんです。青実山椒をごはんに混ぜて握ったもので、これがまたおいしいんです。3年前から月に二度ほど京都で週末を過ごしているんですが、近所の焼き鳥屋でおにぎりを頼んだらこれが出てきたんです。それまで山椒は食べられなかったんですが、これのおかげで好きになりました。京都から学んだいちばん大きな宝物ですね。おかずは、子どものときから好きな卵焼きと肉団子。野菜類は季節によって変わりますが、今日はキュウリとわかめのごま酢あえ。酸っぱいものが好きなので、はすとごぼうと人参のきんぴらにもけっこう酢が効いています。うちのベーシックなトラッドマインド弁当です。

遠山:ありがとうございます。私は、トラッドからロンドンを連想して、「もしロンドンでおにぎり屋を開業したら」というコンセプトで考えてみました。赤いおにぎりは、ドライトマトとアンチョビとケッパーとパプリカのまぜごはん。黄色いおにぎりは中にクリームチーズとアンチョビを入れて、表面にターメリックをまぶしました。海苔で巻いてあるおにぎりには、おにぎりを洋風にしたら梅干しじゃなくてオリーブだ、と中にオリーブを入れて、ごはんにチーズをからめています。けっこうおいしいですよ。ロンドンでおにぎり屋さんもいいと思います!

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2013.09.19(木)
text:Rika Kuwahara
photographs:MIki Fukano / Nanae Suzuki