会長からまた社長に戻ったワケ
遠山:重松さんは会長になられたあと、ユナイテッドアローズの業績が落ち込んだため、また社長に復帰されましたね。普通、業績が落ちたときには経営のプロを入れますが、ファッションのプロである重松さん自身が戻ったのはなぜですか?
重松:会社を立ち上げて会長になるまでの15年で、誰がやっても成長していけるビジネスモデルを固められていなかったんです。だからもう一度戻って、当たり前にやらなければならないことをやりました。
遠山:そのころのユナイテッドアローズにはファッション好きな人が大拍手するようなとんがった事業があったんですが、そうした事業を切ることができるのは会社を創業した重松さんしかいなかった、ということですか?
重松:そうですね。情熱と挑戦は新規事業開発のキーワードだったんですが、業界の人に称賛されるような事業は、お客様には浸透しなかった。だから、面白くても不採算ならその事業は切って、採算のとれる事業だけを残して業績を回復させました。
遠山:もし重松さんではなく、銀行から来た人などが社長になって事業のカットを行ったら……。
重松:会社は難しかったでしょうね。だから、自分のまいた種は自分で刈るしかなかったんです。
遠山:でもそうしたことで、社員も再び一致団結したんですね。
重松:また創業者が社長になって戻ってきたので、「うちの会社はやばいんじゃないか」という危機感が醸成されたんです。
会場:(笑)
重松:我々のエゴでものをつくっても、お客様に受け入れられなければ意味がない。だから、それからは初心に立ち戻って、お客様の欲しいものをお客様に近いところでヒアリングして商品化してきました。
遠山:ファッションはアートじゃないんだから、と。
重松:そうですね。でも、もちろん会社に体力さえあれば新しいことはできるので、リサーチと事業開発を重ねて、来年の春ごろからまた新しい事業をスタートさせます。スマイルズさんはどうですか?
遠山:スープ ストック トーキョーは創業14年ですが、最初の黒字転換は3年目、8年目でやっと利益が安定しました。ここはちょっとユナイテッドアローズとは違いますが、スマイルズは「会話は第一声をこちらから始めるのが礼儀だ」という考え方から、マーケティングやリサーチはしません。また、新規事業を始めるなら、事業を分けて社長になってもらって、小さな会社を立ち上げてもらうということにしました。
2013.09.19(木)
text:Rika Kuwahara
photographs:MIki Fukano / Nanae Suzuki