稲垣吾郎が人気俳優役を演じる主演舞台「プレゼント・ラフター」(Present Laughter)。20世紀英国を代表する劇作家で、マルチアーチストだったノエル・カワード(1899−1973)による大人の恋愛コメディで、1942年の初演以来、海外ではたびたびリバイバルされてきた。最近ではブロードウェイでケヴィン・クラインが、ロンドンではアンドリュー・スコットという名優が演じている。

 そんな傑作に挑む稲垣さんが、舞台への想い、そして先日誕生日を迎えた今だからこそ“大切にしていること”について語ってくれた。


満足せず、何かに乾いていないといけない

――「プレゼント・ラフター」の戯曲を読むと、人気俳優である主人公ギャリーが中年となったことを意識するセリフが出てきます。これを書いたノエル・カワード自身が俳優でもあって、自分の人気者ゆえの孤独や年を重ねることへの不安を、笑いの中に描いていますね。

 誰でも時間が過ぎていくと焦りっていうのはあって、僕もゼロではもちろんないです。夏休みの終わり頃になって焦るように、ね。ただ、まだ時間はあるかなって思う自分もいるし、いつまで生きるかはわからない、とも思う。人生100年時代といっても、それはわからない。ノエル・カワードさんは73歳で亡くなったようですが、やっぱり、できることはその日その日をきちんと生きるっていう感じですかね。

 時間には逆らえないけれど、なるべく自分の理想を追い求めていく。抗うというよりも、常にその時の自分のベストで、理想の自分に自分を仕立て上げていくっていう努力はしなきゃいけないと思う。孤独を抱えたりするから、滲み出る俳優の魅力もありますしね。やっぱり幸せな人とか、何もかも満ちたりてる人の演技なんて見たくないじゃないですか? 作品もそうだし、音楽も。言い過ぎかもしれないけど、満足せず、何かに乾いていないといけないと思う自分もいたりする。

――何か自分を奮い立たせるための目標みたいなものはありますか?

 それは持った方がいいですよね。でもあんまり目標を持っても、人生はその通りにはならないから。ただ、やっぱりいい作品に出会いたい。僕は自分から企画して何かをやるというスタイルではないから、誰かが僕が出ているものを見て、「今度はこれをこの人にやらせたいな」って思ってくれることで、次の作品が始まるわけです。その作品がこれはやれてよかったな、幸せだなって思えるようなものとなり、そしてそれを人に届けることが出来、人も幸せになれるような作品になる。それを地道に一つ一つやっていくっていうことが、今の僕の人生かな。僕もこういう作品をやってみたいな、という希望がないわけではないですけど、今出来ることをやっていくしかないですね。

――吾郎さんは、インタビューなどでもよく「今が一番幸せ」っておっしゃっていますね。

 それは強がりですよ、もしかしたら(笑)。そう言ってないと、やりきれないじゃないですか。

――充実して見えるけれども、やっぱやりきれないこともありますか?

 あります、あります。僕はそんなに悩むタイプではないですけど。やっぱり言霊じゃないけれど、そう言っていないとそうならない、と思うところがある。その辺は草彅剛さんとか、香取慎吾さんとか、やっぱり似てるのかなと。アプローチ方法とか、表現方法とか、使う言葉は違っても、やっぱり似てるなあ、と思うときがたまにあるんですよ。今の言葉って、草彅くんが言いそうじゃないですか。「言霊が」とか(笑)。ちょっと脱線しましたけど、そういうシンプルな考え方になってきたと思いますよ。それが年を重ねるってことかもしれない。

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