自然に溶けこむハイセンスなしつらえ
次なるホテルは、英国人写真家がオーナーというプチホテル「トリ」。ビーチ沿いの道を埋め尽くすように立つホテル群を後にして、小高い丘に向けて6キロほど行くと、何やらコンテンポラリーな建物が見えてくる。
エントランスから光に導かれるように階段を上がると、湖に水が落ちるように見えるインフィニティプール、風の吹き抜けるダイニングが出現。静寂に包まれた空間が、にぎやかなビーチから30分と離れていないのを不思議に思わせる。
湖から丘側に目をやると、なにやら細木に囲まれた塔が、樹齢200年というガジュマルの木と対をなすように立っている。
このホテルのサイトにある「自然に導かれ、審美的な情熱で発展させ、数学的な芸術と知性によって包み込んだ……」なコンセプトって、ナンノコッチャ??? というわけで、支配人のオリバーに話を聞いてみた。
敷地内、一見無造作に建てられたように見える建物は、給水塔を中心として“フィボナッチ数列”と“黄金比”から生まれた螺旋(らせん)の位置に配置されているという……。
謎は深まるばかりで、ほんとうは図解すると分かりやすいのだが、おおざっぱにいうと「この有名な数列は、進むほどに隣同士の数が黄金比に近づき、自然界のさまざまなものに見出せる。バラの花びらの配置であったり、松ぼっくりの松かさが表す模様であったり。で、この数列と黄金比を合わせた長方形から生まれる螺旋模様も巻き貝をはじめ、自然界にたくさん存在する美しい形。この螺旋上に、ホテル内の建物はならべられている」のだそうだ。
右:給水塔内も螺旋階段。急な上に狭いので、案内するときに「シギリヤ(スリランカにある岩山の観光名所)クライミング」というのがお約束のジョークらしい。
ようは、ホテル内の建物は数学に基づいた配置で建てられているけれど、それは自然界にたくさん見られる位置関係なのだということ。だから心地よいでしょうというわけで、ハイ、たしかに目に映る景色のバランスがとても快適。しかも窓からの風景は、絶妙にフレーミングされていて美しい。このあたり、さすがオーナーが写真家というだけあります。
さらに、オーナー夫人はヨガのインストラクターで、なんでもハリウッドセレブにもヨガを指導している人らしいのだが、そんな夫人のレッスンも受けられる。そして彼女いわく、人間の体にも黄金比がたくさんあるのだそうな。
精神的な居心地のよさでいうと、このホテルが徹底的にエコ管理されたホテルであるということ。スリランカにはエコを提唱するホテルがけっこうあるが、ここは“持続可能”かつ“ラグジュアリーデザイン”というのが大事。
界隈がシナモン畑なので、シナモンの端材をぞんぶんに利用。地形に合わせて設計したので、ホテルを建てる上で1本の木も伐採していないそうだ。ソーラー温水、屋上庭園、コンポスト(堆肥)……あらゆる環境対策を、おしゃれに行っている。
で、肝心なホテルとしてのサービスや居心地はというと、これもなかなか優れて快適。食事もちょっと洗練されすぎているように思うけれど、きちんとおいしい。ボートハウスから出発する湖巡りには、シナモンアイランドでのミニ・スパイス講習もあって楽しめる。ゴージャスということではないが、とても優雅で過不足のないホテルライフが味わえる。
Tri(トリ)
所在地 Koggala Lake, Aladuwa Watte, Pelassa, Thitthagalle, Ahangama
電話番号 0777-708-177
http://trilanka.com/
2016.11.07(月)
文・撮影=大沢さつき