もともとはジェフリー・バワの個人別荘

 これまで、さまざまなホテルやリゾートをみてきました。それぞれが壮麗であり、洗練されていました。しかし、今回訪れたスリランカのルヌガンガでは、これまでのホテルに関する価値観がコペルニクス的転回をむかえた、とまでいうとおおげさですが、とにかく大きな衝撃を受けました。

 そこで、この小さな宿泊施設のなにが優れているのか、お伝えしたいと思います。是非みなさんにも足を運んでほしいと思い、とくに実用的な観点からまとめてみました。

(1) そもそもルヌガンガとは何なのか?

ルヌガンガから眺める夕焼け。日没の時間にあわせてディナーを始めるとよい。この日のゲストはほかに誰もいなかった。

 いま、世界最高級のリゾートの代名詞ともいえるアマンリゾート。もともとプーケットやバリ島など、かぎられたリゾート地で開かれていましたが、1990年代以降、急激に世界中に展開し、現在では日本でも東京と志摩半島に展開していることは、ホテル好きにはよく知られていますね。

 そのアマンリゾートの創始者、エイドリアン・ゼッカやアマンリゾートの建築家として知られるケリー・ヒルに大きな影響をあたえたといわれているのがスリランカ人の建築家、ジェフリー・バワでした。

 このあたりの経緯については『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』(山口由美・著)で詳しく述べられています。(※参考リンク参照)

宿泊者共用のリビングルーム。ルヌガンガは夕方から夜にかけてが美しい。日中のように見学客が訪れることもなく、静謐な時間が流れる。

 バワは1919年に、イギリスの植民地であったセイロン(現在のスリランカ)のコロンボで、イギリス・ドイツ・スコットランド・シンハラ人の血を引く、裕福な家庭に生まれました。その後、ケンブリッジ大学で英文学を学び、卒業後、弁護士としての道を歩み始めました。

 その後、建築に魅せられるようになり、1年半という長い世界放浪ののち、ルヌガンガに理想の別荘をつくろうとします。ところが、自分の建築に関する知識が不足していることに気づき、再び渡英して建築を学びました。

 彼が建築家としてスタートしたのは38歳のとき。その後、2003年に84歳で他界するまでに、スリランカの国会議事堂やリゾートホテルなどを手がけました。しかし、バナキュラー(土着的)な建築家としてバワの名が世界中に知られるようになったのは彼が晩年になってからでした。時代がバワの感性にようやく追いついたのかもしれません。

パースペクティブが計算しつくされた空間。

 バワは建築の世界にどのようなものをもたらしたのでしょうか。わかりやすい例であげると、水平線とプールの水面が溶け合うインフィニティプール。いまでは世界中のホテルやリゾートで目にするようになりましたが、世界初のインフィニティプールはバワがてがけたヘリタンスアフンガッラ(1981年開業)といわれています。

 ルヌガンガは、コロンボに拠点をおいたバワが週末に訪れる別荘として建てました。コロンボから60キロほど南にむかったベントタに位置していますが、海沿いではなく、やや内陸部に入った湖のほとりにひっそりとたたずんでいます。

 バワが手がけた建築はホテルをはじめ、スリランカに多く残ります。しかし、ルヌガンガはバワが自分自身のために建て、半世紀にもわたって手を入れ続けた、きわめて個人的な色彩の強い別荘でした。

 ここは、バワの没後、バワ財団によって見学・ランチ・宿泊などが可能になっています。

(2) ルヌガンガへのアクセス

 コロンボ国際空港からコロンボのバスターミナルまで、高速道路経由のエアコンバスで約55分。30分間隔。コロンボ市内に入ってからは渋滞で時間がかかります。バスターミナルからフォート駅までは歩いて5分。

 コロンボフォート駅から急行が停車するアルスガマ(Aluthgama)、あるいは各停のみのベントタ(Bentota)まで鉄道で約2時間。本数は数時間に一本ですが、バスよりも快適で早いようです。アルスガマまで2等は110ルピー、3等は55ルピー。座席の予約はできません。

 フォート駅から3等に乗るときはみな我先と乗り込むので要注意。また、可能なら進行方向右手の海側の席を確保しましょう。なお、3等のみの各停はトイレがありません。

 アルスガマ駅からルヌガンガまではトゥクトゥクで約15分、片道500ルピー。1時間待たせて往復800ルピー。言い値なのでもう少し下がると思います。見学のみでもゆっくりしたいならルヌガンガでトゥクトゥクを呼んでもらえるので待たせておく必要はありません。

 バスで行く場合は、アルスガマ駅ホームから跨線橋をわたり、左側の階段を降り、道なりに海岸方向つまり西側に歩いて数分で広い通りに出ます。その右手に見えるバスターミナルでデッドゥワ(dedduwa)方面のバスを捕まえ、二つ目の橋を渡って右手にルヌガンガを見てしばらくして降ります。

 Google mapなどであらかじめ地図を読み込ませておきましょう。頻発で15ルピー、12分。バスを降りた三叉路の商店でトゥクトゥクを頼み100ルピー。歩いても10分ほどです。入口にある呼び鈴を鳴らしてしばらくするとスタッフがやってきます。

(3) ルヌガンガでは日帰りでの見学も可能

 可能なかぎり宿泊することをすすめますが、見学のみ、あるいは見学+昼食も可能です。1時間程度の見学は1,250ルピー、カレー(美味)もつけると3,100ルピーです。コロンボからの日帰りも十分可能。見学時間は10時から17時。昼食は見学の前でも後でもかまいませんが、見学後を勧めます。ゲストは西洋人、中国人にくわえ、今回はゴールデンウィークということもあり、日本人の姿がめだちました。

2016.07.25(月)
文・撮影=橋賀秀紀