土地でとれたものを生かし、オイルから糠まで手作り

 2008年には農林水産省から「地産地消の仕事人」に、2023年には、地域の風土、歴史や文化を料理に表現する「新潟ローカル・ガストロノミー」を受賞するなど、渡辺さんの佐渡の食材の味を立たせたやさしい味付けは、口に含んだ瞬間に心が満たされていくのを感じます。

 なかでも渡辺さんの料理に欠かせないもののひとつが「椿油」。椿油というと大島椿のイメージがありますが、戦前は佐渡島が生産第2位のシェアを誇っていました。渡辺さんも移住後にその文化を知り、種を集めて絞り始めたのだそうです。

「もともとはオリーブ油が体に合わない父のために、なにかいい油がないか調べていたところ、佐渡島では昔から椿油が作られていたことを知りました。よい文化なので復活させたい気持ちもあり、島のみなさんに声をかけて種を集めていただき作り始めたんです。コールドプレスという非加熱の製法で絞っているのですが、父の体にもよく合い、今ではサラダやお刺身などと一緒に宿でも提供しています」

 そしてもうひとつは漬物。新潟県が魚沼のムロで見つけた乳酸菌をもとに、新潟の食品研究所に渡辺さんが3年間通って勉強して作った糠で作られています。野菜の風味はそのままに、漬物特有のしょっぱさもあまりなく、なんとも美味!

「佐渡市認証米『朱鷺と暮らす郷』の糠と、佐渡の海洋深層水から摂れた塩、そこに乳酸菌を入れて作られた、新潟産の糠床です。一日漬けるだけで熟成発酵して、野菜がしっとり。たっぷりの乳酸菌を摂ることができますよ」

 都会にいると常になんでも手に入ることが当たり前になり、忘れてしまいがちな季節の移ろい。食を通して四季折々を感じ、体が喜ぶ食事をしてほしい、そんな渡辺さんの想いが詰まった料理はまさに“佐渡島の味”。ぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

御宿 花の木

所在地 新潟県佐渡市宿根木78-1
電話番号 0259-86-2331
部屋数 7室
料金 1泊2食付き2名1室利用時(1名様)13,000円~(3/19まで)
※3月20日以降は15,000円~
チェックイン15:00〜21:00まで/チェックアウト10:00
http://www.sado-hananoki.com/

2025.02.02(日)
文=齊藤美穂子
写真=佐藤 亘、釜谷洋史