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 日本を誇る米どころとして知られる新潟は、米以外にも日本海で獲れる海の幸や山菜やジビエといった山の幸、酒など、まさに食の宝庫。そんな新潟ならではのローカル・ガストロノミーを体感できる「御宿 花の木」へ、晩秋のシーズンだからこそ味わえる料理をいただきに伺いました。


地元の食材を使用し、佐渡島の豊かな自然を表現

 佐渡島の南部、小木町宿根木にある「御宿 花の木」は、女将兼料理人の渡辺明子さんが地元の旬な食材を使った料理で客をもてなすことでも人気の宿。その料理は『ミシュランガイド仏語版2008』にも掲載され、2008年には、農林水産省が指定する「地産地消の仕事人」に選出、2023年には、地域の風土、歴史や文化を料理に表現する「新潟ローカル・ガストロノミー」を受賞するなど注目を集めています。

 ふるまわれる料理は地元の食材を最大限に活かし、新潟・佐渡島の豊かな自然を表現しています。お品書きは存在せず、渡辺さんが島中を巡って買い集めた食材でその日の料理を決めているそう。

 「御宿 花の木」の料理は渡辺さんが一人で一品一品丁寧に作り上げていきます。「7部屋という規模感だからこそずっと続けていられるんです」と話しながらも手を休めることはなく、次々と料理が完成していく。宿をはじめて30年と少し、さすがの手捌きです。

 まずはレンコンと大根のシャキシャキ感、そしてキクラゲのぷりぷりとした食感がたまらない、ほんのりと優しい味付けの小鉢が登場。薬膳的視点でも食をとらえているのは、かつて自然療法で父親が病気から回復した経験から。安心安全で体に優しい料理を提供することが花の木のベースにあるといいます。

 素材本来の味を生かしたシンプルな味付けの小鉢が続いた後に登場したのはサラダ。そしてこちらのサラダの味をより一層引き立てるのは、渡辺さんが絞っているという自家製の椿油と佐渡の海洋深層水から採れた塩です。

「椿油はオリーブオイルのようにして食べていただけたら。無農薬で育っている佐渡の椿を、熱も水分も加えず加圧だけで液状の油分を分離するコールドプレス製法で作っているので、クセもなく素材の味を邪魔することなく引き立ててくれます。塩は、塩をとった次の日に鍋底に結晶状に残っている粗塩を使用しています。100%佐渡の海で採れたもので、ミネラルがぎゅっと詰まっていて美味しいですよ」

2025.02.02(日)
文=齊藤美穂子
写真=佐藤 亘、釜谷洋史