佐渡島の南部、小木町宿根木にある「御宿 花の木」。2000坪という自然豊かで広大な敷地に、静かに佇む古民家宿です。離れ5室、本館2室と7室だけの小さな宿は、四季折々の自然を女将である渡辺明子さんがふるまうお料理からも感じることができます。今回はそんな渡辺さんに食への想いを伺いました。
自然の恵みの恩恵を受け、安心安全で体にやさしい料理でもてなす
「Simple is the bestという言葉のとおり、その時々にしか食べられない旬な食材を使用し、できるだけ素材自体がもつ本来の味を感じられるような調理をしようと自分に言い聞かせながら作っています」と語る渡辺さんが提供する料理は、野菜から米、魚介類にいたるまで佐渡島でとれたものを基本的に使用しています。佐渡島の自然の恵みに出会い、食への価値観が大きく変わったといいます。
もともと愛知県名古屋市出身の渡辺さんが佐渡島へ移住したきっかけは父親の病気でした。手術をしなければ余命2年ほどだと言われ、その手術を拒んだ父親と母親と三人で引っ越してきたそう。
「それまで父はたくさんの薬を飲んできたのですが、佐渡に来てから母が自然療法を始め、薬を飲むのをやめたんです。なにせここは自然がたくさんあるでしょう。いずれは名古屋に戻るつもりだったけれど、自然由来の食生活に変えたことで、父の容態もどんどんよくなり、結局そのあと33年、88歳まで生きたんですよ。母も心臓が悪くて都会で生活をしていた時は入院したりしていたのですが、94歳まで生きて。本当に佐渡へ来たおかげで、自然と食との関係を実感することができて、意識が変わりました」
「花の木」の料理のベースはそこにあるといいます。
「安心安全で体にやさしい食材を使って、たくさん食べても次の日また元気にご飯が食べられる、そんな料理を提供するよう心がけています。野菜は島中のお店をまわり、カニはカニ屋さん、魚は魚屋さんで毎日仕入れ、お米は花の木のために棚田でクラシック米を作っていただいて。部屋数も多くないので、島を一周ぐるりとまわれば、十分な量の旬な食材が用意できます」
2025.02.02(日)
文=齊藤美穂子
写真=佐藤 亘、釜谷洋史