「もう一回♪」という大発明

 そもそも大阪在住の私は、間接的に、彼女にかなり長らくお世話になっているのだ。というのも、JRの大阪環状線桜ノ宮駅の発車メロディが「さくらんぼ」なのである。これがとってもかわいい!

 思い返してみれば、「さくらんぼ」を初めて聴いた時は衝撃だった。繰り返しの合図を「ワンモーターイ(one more time)♪」と歌っていたアーティストはいたが、「もう一回」と日本語にし、歌詞として組み込むとはなんというナイスアイデア……! 現在売れに売れているCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」で「1番上」という歌詞を聴いた時の衝撃とちょっと近い。「その日本語があったか」である。脳への定着力も強く、21年も前の歌だが、いまだに「もう一回」と言う時、無意識に節をつけて歌ってしまう人も多いと聞く。

 改めて「さくらんぼ」のMVを観ながら目を細める。かわいいのう。1990年代のギャル文化とはまた違う、2000年代ならではの、親近感と才能あふれる女の子って感じだったなあ。甘酸っぱくて、躊躇なくピンクに染まっていて、瑞々しくて。イェイ!
なんだか涙が出てきたわ(泣)。若いってすばらしい……。

衝撃だった「黒毛和牛上塩タン焼680円」

 改めて「さくらんぼ」を聴き、20歳若返ったような気分になった。となると、彼女のシングルをもっと聴き返したくなるのは当然の流れである。
 友達(フレンズ)と戦隊ヒーロー(レンジャー)を掛けて「つらいときはすぐ駆けつけるよ」という気持ちを表した「フレンジャー」。桃の形を「ひっくり返る愛のマーク」と見立てた「PEACH」。チュー(キス)するリップ(唇)で「CHU-LIP」。ああ、甘酸っぱさのビッグウェーブに身体がクネる。ウエストが引き締まりそうなほどに。ワードセンスがキラッキラしてて、悔しい! 

 特に「黒毛和牛上塩タン焼680円」は世間の度肝を抜いたっけ。まさかの、網をベッドに見立て、女の子を上塩タンで表現し、熱い恋を描くという変化球。しかもB面が「つくね70円」。どちらも非常にエロチックな曲である。食とHを巧みに絡ませて描き、タイトルには金額(しかもかなり安い)を付け加えるあたり、さすが大阪出身。食へのこだわりと商人気質を見事に反映している。

 ただ甘いだけの人じゃない――。2022年1月に配信された文春オンラインのインタビューで彼女は、自らの曲について「毒とか、駄菓子の体に悪い感じを表現しているというスタンス」と書いてあったが、なるほど、言い得て妙である。ちなみに「黒毛和牛上塩タン焼680円」を検索した途端、私の検索画面には、黒毛和牛肉の広告がガスガス出てくるようになった。いっそ上塩タンを購入し、食べながら聴くか……。

2024.08.02(金)
文=田中 稲