この記事の連載
海の向こうへ
見尾火燈明堂の時代から、長い歴史を経て今に残る御前埼灯台。
「戦後になってからも改修工事を重ねて来たのですが、実は最近になってこの建物が、二重構造になっていることが分かったんです」
平成二十八年の改修工事の際、建物を再調査してみたところ、この灯台が、レンガの外壁と、内壁の二重構造になっているということが判明したのだという。この二重円筒構造や、土台部分をコンクリートで施工するといった技法は、当時としては正に最先端であると共に、大変珍しいものでもある。
「そのことによって、この御前埼灯台は、今は文化財として登録されているんです」
映画『喜びも悲しみも幾歳月』の撮影も行われたとのことで、最盛期には大勢の観光客で賑わった。
現在も、灯台前の広場では様々なイベントが開催されており、地元住民はもちろん、この遠州灘の波を求めて来るサーファーや、灯台ファンたちが訪れる名所となっている。
高台から広がる大海原を眺める。
「海の向こうからは、戦も文化もやって来るんだな……」
海に囲まれた島国だからこそ、変化は向こうからやって来る。行き詰まりを感じた時には、こんな風に灯台の立つ突端で、海と対峙するのもいいかもしれない。
灯台を満喫し、齋藤さんや海保の方々と別れた取材陣一行は、車を走らせる。
「明清楽も干し芋もいいけれど、やっぱり一番の海の幸は海鮮ではなかろうか」
海鮮料理の店に行き、地魚の刺身や唐揚げを注文。強い風ですっかり凍えた体が、あら汁を飲むうちにほぐれてくるのを感じた。
「見尾火燈明堂で、寝ずの番をしていた人に、このあら汁を飲ませてあげたい……」
さぞや寒い思いをしていたであろう、数百年前の人のことを思う。
帰り道、車の窓から再び、御前埼灯台の白い姿が見えた。どっしりと身構えたその佇まいは、長い歴史の中で、多くの船を見守って来た不動の自信にも似たものを感じさせる。
「今度、横浜スタジアム近くを通ったら、改めてブラントンさんに挨拶しなきゃいけない気がしてきました」
海の向こうからやって来た人が造ったものが、海の向こうを見つめている。
何とも頼りがいのある美しい姿である。
御前埼灯台(静岡県御前崎市)
所在地 静岡県御前崎市御前崎1581
アクセス JR東海道本線菊川駅下車、菊川駅前~(静鉄バス菊川浜岡線)~浜岡営業所下車(約40分)~(静鉄バス御前崎市内線)~御前崎海洋センター下車(約30分)、徒歩約10分
灯台の高さ 22.5
灯りの高さ※ 54
初点灯 明治7年
※灯りの高さとは、平均海面から灯りまでの高さ。
海と灯台プロジェクト
「灯台」を中心に地域の海の記憶を掘り起こし、地域と地域、日本と世界をつなぎ、これまでにはない異分野・異業種との連携も含めて、新しい海洋体験を創造していく事業で、「日本財団 海と日本プロジェクト」の一環として実施しています。
https://toudai.uminohi.jp/
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青い空と海、そして灯台が織りなす美しいランドスケープを楽しむ……そんな灯台めぐりを、より充実したものにする情報が満載の「海と灯台プロジェクト」公式HP。全国の灯台や周辺自治体・企業・団体が開催するイベントや、灯台を再価値化して新たな利活用を生み出そうとする取り組みの紹介など、日本の灯台の「いま」がわかる情報を発信中です。
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その土地の物語を読み解く
“灯台巡り”の旅へ
2024.06.30(日)
文=永井紗耶子
写真=橋本篤
出典=「オール讀物」2024年6月号
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