滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。

» 第2回 自家農園生まれの野菜の滋味に誰もが驚嘆する名店「アルページュ」
» 第3回 若き日本人シェフが腕を振るうパリの1ツ星店「レストラン・ケイ」
» 第4回 芸術性と職人技に目をみはる極上の魚介専門店「レッシュ」
» 第5回 最高峰ホテルで味わう真のリュクス 心地よい3ツ星「エピキュール」

 1817年創業の老舗ホテル「ル・ムーリス」が、フィリップ・スタルクによって大々的なリニューアルを図られたのは2007年のこと。ルイ16世様式を基調にした空間はセンシュアルに生まれ変わり、ヴェルサイユ宮殿の平和の間をモデルとしたメインダイニングは、その美しさを一層に際立たせています。03年より料理長に任命されていたのは、ポール・ボキューズが愛する弟子ヤニック・アレノでしたが、13年秋、アラン・デュカスが継承。指揮をとることになりました。シェフは、現在改装工事中のホテル「プラザ・アテネ」のメインダイニングのシェフだったクリストフ・サンターニュが務めます。

老舗最高級ホテルのメインダイニングを巨匠が継承

火通しの素晴らしいマトウダイ。さっぱりとした二十日大根と、レーズンの甘味で際立つ

セバスチャン 今日経験した「ル・ムーリス」の食卓は、今まであまたと体験したレストランの中でも、最も素晴らしい体験の1つだったと断言したいな。

アヤ アラン・デュカスがヤニック・アレノから引き継いで、このレストランを監修することになったのは2013年の9月だったから、今日はどんな料理が出て来るのかと、期待と不安が半々で来たのよね。

セバスチャン 正直実際に体験するまでは、どちらかというとクラシックな料理が出てくるかなと思っていたんだよ。

ヴェルサイユ宮殿の「平和の間」に劣らぬ、ゴージャスな店内

アヤ そう、ヴェルサイユ宮殿の「平和の間」にインスピレーションを受けた店内に呼応するような、でしょ?

セバスチャン ヤニック・アレノのあと、クリストフ・サンターニュは、1つの歴史をひっくり返すことに成功したと思う。ムーリスの料理は自分にとって、新星の現れとでもいってもいいな。

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2014.02.06(木)