滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。

» 第1回 アラン・デュカスが手がける「ル・ムーリス」の至高の美食
» 第2回 自家農園生まれの野菜の滋味に誰もが驚嘆する名店「アルページュ」
» 第4回 芸術性と職人技に目をみはる極上の魚介専門店「レッシュ」
» 第5回 最高峰ホテルで味わう真のリュクス 心地よい3ツ星「エピキュール」

 1977年長野県生まれのオーナーシェフ小林圭さんは、パリの3ツ星「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」にて5年間もセカンドシェフを務めた精鋭です。ラングドック地方の現3ツ星「オーベルジュ・デュ・ヴュー・ピュイ」、アルザス地方の現1ツ星「ル・セルフ」など、フランスの地方も経験して、そのレシピにおいて、引出しも多い。2011年3月に、伝説的なジェラール・ベッソンの店跡に「レストラン・ケイ」をオープン。翌年には1ツ星を獲得しています。めきめきとその腕を伸ばして、トップのフランス人シェフたちからも一目置かれる存在です。

アラン・デュカスの厨房が育て上げた逸材

活きの良いオマールと春野菜の華やかな一品。

セバスチャン 初めて圭の店に足を運んだのは1年以上前だけれど、非常に“ZEN”で、心和む料理だったのを覚えてるよ。皿選びや色使いも美しくて、素材も優れているし、火通しも完璧。さすが、アラン・デュカスの厨房で腕を磨き上げた、きちんと積み上げられた仕事だ。

アヤ この店は、もともとジェラール・ベッソンという素晴らしいシェフの伝統的なレストランだったので、プレステージ感もあるわ。

セバスチャン 商工会議所そばの、この界隈を昔からよく知っているけれど、圭がこの店のオーナーになった時には正直ビックリしたよ。フランス料理の殿堂ともいえるような店で、日本人がこの場所に降り立ったんだからね。でもそんな考えを吹き飛ばすような、圭の、完璧な技術を現すような、控えめとでもいっていい簡潔さには脱帽した。

アヤ 圭がこの店を受け継いだ時には、かなり物議を醸していたのを覚えているわ。でも、日本をよく知るベッソンは、圭がフランス料理の本髄をきちんと継承していることを知っていたし、愛する店を彼に任せることに関して、非常に自信をもっていた。秋に、ベッソンと圭が2人でメニュー作りをするというフェアをしていたけれど、心温まるものを感じたわ。

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2014.02.13(木)