今、花の都では、経験値の高いシェフたちが次々と新たな店をオープンし、ガストロノミーという愉しみに、改めて目が向けられ始めている。
アーティスティックな味覚と空間を提供する4軒をここにご紹介。今回は「名ソムリエと名シェフが奏でる至福の一皿」。
» 第1回 「洗練の空間で満喫する美しいハーモニーの料理」
» 第2回 「魂の奥に眠った記憶を呼び覚ます“香り”のコース
» 第4回 「滞仏四半世紀の邦人シェフが極めたフレンチ」
名ソムリエと名シェフの阿吽の呼吸に感嘆必至
ギャランス
右:温かさがちょうどよい緑アスパラガスに、キューブに切ったスモーキーなハドックを散らした。ムースもハドック風味。32ユーロ
官庁街アンヴァリッドそばの好立地に、昨年秋にオープンした「ギャランス」。ギャランスは、名映画『天井桟敷の人々』のヒロイン名だが、茜色の意も持つ。オーナーであるソムリエのギョーム・ミュラー氏が、料理に華を添えるワインへの思いも込めて付けた名前だという。彼は3ツ星レストラン「アルページュ」での経験を経て、自分の店を持とうと決めたとき、やはり同店に勤め、南仏の名店「プチ・ニース」で腕を磨いた料理人ギョーム・イスカンダー氏と再会。キッチンを任せることに。
右:2階サロンにあるカーヴには垂涎の、ミュラー氏のコレクションも眠る
イスカンダー氏が「ワインを引き立てる料理を作ります」と言えば、ミュラー氏は「繊細な料理にぴったりのワインを選びたい」と、お互いがお互いの仕事と感性を信頼し合う仲。あぶったカツオとタコにカニのビスクソースを合わせた一皿に、ミュラー氏が選んだのは、ピュイイ・フュセの白。南の光を浴びてのびのびと育ったシャルドネは、柑橘系の香りが瞬時に飛び立つようで、海の幸の旨味を引き立ててくれる。緑アスパラガスとハドックには、石灰質の土壌から生まれた、草花系の香りのモンルイ・シュール・ロワールの辛口の白を。青臭さとスモーキーな香りに、しっかりとした切れ味が加わって、小気味よいリズム感が走った。
一組ごとに豊かな味わいのハーモニーに出会えるという幸せ。2人の静かな阿吽の呼吸を、心ゆくまで堪能したい。
右:多くの俊英を輩出した3ツ星店で出会ったコンビ/オーナーのミュラー氏(右)とシェフのイスカンダー氏は、ともに「アルページュ」出身
photographs:Shiro Muramatsu
text:Aya Ito