今、花の都では、経験値の高いシェフたちが次々と新たな店をオープンし、ガストロノミーという愉しみに、改めて目が向けられ始めている。
アーティスティックな味覚と空間を提供する4軒をここにご紹介。今回は「魂の奥に眠った記憶を呼び覚ます“香り”のコース」。
» 第1回 「洗練の空間で満喫する美しいハーモニーの料理」
» 第3回「名ソムリエと名シェフが奏でる至福の一皿」
» 第4回「滞仏四半世紀の邦人シェフが極めたフレンチ」
魂の奥に眠った記憶を妙なる香りが呼び覚ます
ラ・ダーム・ドゥ・ピック
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右:低温調理で仕上げた口当たりの繊細な的鯛に、コンフィとピュレにしたアニス風味のキュウリを添えて清々しい味わい
料理界の紅一点アンヌ=ソフィ・ピック氏。南仏ドローム県ヴァランス市の老舗「ル・ピック」の4代目で、2007年、祖父と父が築いてきた3ツ星という威信を取り戻し、以来それを守っている。
パリの「ラ・ダーム・ドゥ・ピック」は、アンヌ=ソフィ自身がオープンする初めての店で、店名は“スペードの女王”にかけている。感性豊かな彼女は、“嗅覚こそ五感の中で人の情動にもっとも訴える感覚で、記憶を甦らせてくれるもの”と考えた。香りを導入に料理へと誘うコースを提供するという新しいコンセプト。日本の香料会社「高砂」とのコラボレーションで挑む。
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右:ヘーゼルナッツ風味のクリーム、抹茶のジェノワーズ生地、抹茶クリーム、バニラのシャンティイを層にした“オペラ”風デザート
香りのコースは3つ。香水を染み込ませた3つの試香紙が差し出され、気に入った香りのコースを選ぶというプレリュード。料理はその香りを想起させる味わいで展開する。
例えば「サフラン色の大地」なら、“ブルーマウンテンコーヒー風味のビーツ”“サフラン風味の仔牛”など。「シトラス」なら、“さまざまなニンジン オレンジの花水風味”“地中海のヒメジ カボス風味”。「森の下生え、スパイシー」なら、“的鯛 キュウリのムスリーヌとコンフィ アニス”“鳩 ルバーブとローズの香り”……。
さまざまな素材とテクスチュアを組み合わせた味わいは、時間とともに、はじめに差し出された香りと結びつく。忘れていた感覚を呼び覚まされる体験で、新鮮なエモーションに出会える。
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右:美しき3ツ星シェフ。感性豊かな料理をパリに/オーナーシェフのアンヌ=ソフィ・ピック氏。名高き老舗「ル・ピック」の4代目 (C) Michael Roulier
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photographs:Shiro Muramatsu
text:Aya Ito