ミシュラン2ツ星を獲得する日も遠くない?
セバスチャン ところで君は、圭の料理をどう思うの?
アヤ 初めは、圭の作る料理があまりわからなかった。エネルギー、情熱のある人だということはわかったけれども、きっとそれを上手く表現できていなかったというか。でも、キッチンを大改装した昨年冬前後くらいから、個性を強く感じるような料理になってきた。クリエーション力、火通し、調味、盛りつけとか、食器選び。すべてが満ちて来て、力を受け取るようになった。洗練されて、エレガントだけれども、単純に美しいだけでなく、きちんと圭自身が存在する料理。とても尖っているし、色気もでてきたわ。
セバスチャン 腕を磨き上げるという作業を終えて、彼自身の世界を作り上げている最中なんだろうな。今年は2ツ星を獲得すると思う?
アヤ そう思うわ。いずれにしても2ツ星の料理は作っている。
セバスチャン 賛成だよ。熟達度、素養、一徹さどれをとっても2ツ星の料理だ。創造性、勤勉さ、自分自身としてのガストロノミーの世界との一貫性。そして探求心においての、正確さというのは稀に見るものだと思う。皿やオブジェなどのチョイスにもこだわりを感じるし、皿と料理の素材の調和にも心を配っている。
アヤ 圭は3ツ星を目指しているのよ! どれをとっても素晴らしいのだけど、1皿だけ気になる料理があって。
セバスチャン それは何だい?
アヤ スペシャリテでもあるスモークサーモンのサラダよ。
セバスチャン あ、あの花籠のような料理だね。カリカリとした食感にした生のビーツをスパゲッティ風に切って、クリーム、色鮮やかな野菜、サーモンの上に乗せていた料理。
アヤ とっても美味しくて美しいのだけれど、食べるのが難しいでしょ。いつも苦労するから、圭に進言するのだけれども、聞き入れてくれたことはないわ。あの美食評論家のフランソワ・シモンも、他の料理は手放しで絶賛しているけれど、このサラダだけはどうにかして欲しいと言っているそうよ。
セバスチャン 自分には、問題なかったな。自分の仕事に強く信念を持って、それを皿の中で表現しているのだから、決してその思いを曲げちゃいけないと思う。
アヤ それが、個性なのね。
セバスチャン 曲げない一徹さがあるからこそ、偉大なるシェフは生まれるんだよ。自分自身の個性というのを見失ってはいけない。偉大なるシェフは、自分が目の前でしていることをわかっているし、何故それをするかということをわかっている。それが規格外であったとしてもね。圭はまさにそのエスプリを持っているといえる。そういう人物、男でも惚れるな。
Restaurant Kei (レストラン・ケイ)
所在地 5 rue Coq Héron 75001 Paris
電話番号 +33-1-4233-1474
URL http://www.restaurant-kei.fr/
営業時間 12:30~13:30、19:45~21:00
定休日 日・月曜日、木曜日昼
伊藤文 (いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。ル・コルドン・ブルー パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書にジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、グリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。食に関わるさまざまなジャンルの人々を日仏で繋ぐ、バイリンガルのウェブマガジン「食会」主宰。
食会 http://shoku-e.com/
セバスチャン・リパリ
料理コラムニスト、コンサルタント。国際的なガストロノミー会社「Food & Beverage」 のコンサルタントを15年務めた後、「Bureau d'Etude Gastronomique」を設立。アラン・デュカス出版の編集やCanal+料理番組のコンサルタント、多くのイベントのディレクターを務める。名シェフ、ティエリー・マルクスが会長を務めるアソシエーション「Street Food en Mouvement」の創始者で副会長。
Bureau d'Etude Gastronomique http://www.lebureaudetude.com/
Column
アヤ&セバスチャン パリ、男と女のフレンチ語り
滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。
2014.02.13(木)