圭シェフがフランスで最初に勤めた店での驚くべき逸話

皮がカリッと香ばしいスズキと白アスパラ。

セバスチャン 彼は常に完璧を目指している。常に成長しようとしている。それに、成長するはずの人だと思うよ。2ツ星を目下狙っているようだったが。

アヤ 彼は4ツ星があったら4ツ星を取ると、やるからには最高を目指す人よ。そんな精神が私は好き。

セバスチャン 新たなる発見を探すガストロノミーを愛するシェフたちに、僕はよくこの店を勧めているよ。料理のことをわかっていると、より皿を読む楽しみが生まれるというか。モダンアートと同じようにね。アートの歴史をまずは知ることで、コンテンポラリーアート、ミロの絵を愛でることができるように。
 そういえば彼は、ラングドック地方の3ツ星、ジル・グジョンがシェフの「オーベルジュ・デュ・ヴュー・ピュイ」でも働いていたそうだね。

アヤ 1999年に渡仏して初めての勤務先がそこだったのよ。

セバスチャン グジョンは、有言実行の、すばらしいシェフだよな。

アヤ だから、圭はグジョンを敬愛しているのですって。そうそう、ちょっとした逸話があるのよ。グジョンの店での初日、グジョンは圭に魚のポストに就くようにいったのね。やはり魚の国からきた日本人の腕を発揮してもらいたいと思うのは当然でしょう。でも、圭は、肉の扱い方を学ぶために、フランスにやってきた。フランスは肉の国として知られるでしょ。それでグジョンの要望を上手に断るために、ダイレクトにノンと言うのではなくて、魚のアレルギーだから触れないと言ったのよね。

セバスチャン そいつは、なかなか気がきいているな。

アヤ きっとノンと言ったら、物議を醸して、グジョンを納得させることができなかったかもしれない。アレルギーという言い訳で、肉のポストにすんなり入る事ができた。とっさにこの言葉が出た、と圭はいっていたの。それが彼の強さだし、私が好きな理由なの。日本人は、自分の要求を伝えずに、どうしてもすべてを受け入れてしまう傾向があるけれど、フランスで成功したいなら、それは通用しない。

セバスチャン  ところでアヤは、この困った日本人的傾向、君も持ち合わせてるの?

アヤ ノン! でも、フランス人レベルに引き上げるまでには、かなり時間がかかったわ! 圭は凄い。とにかく躊躇いなく進んでいける人だから。だからこそ、パリにやって来て目指したのが、アラン・デュカスの店で働くことだった。フランス料理の頂点で働きたいという思いがあったから。

セバスチャン 同時に、日本人の仕事の厳格さが、客室にも流れていて、好きだな。フランス人の店にはない、静謐さとともに深い感激を得たという体験ができた。時を越えたような感覚といったらいいか。

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2014.02.13(木)