滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。
» 第1回 アラン・デュカスが手がける「ル・ムーリス」の至高の美食
» 第2回 自家農園生まれの野菜の滋味に誰もが驚嘆する名店「アルページュ」
» 第3回 若き日本人シェフが腕を振るうパリの1ツ星店「レストラン・ケイ」
» 第5回 最高峰ホテルで味わう真のリュクス 心地よい3ツ星「エピキュール」
凱旋門のそば、テアトルやシネマが立ち並ぶ華やかな界隈に、美しいアールデコの内装で1925年にオープンした「レッシュ」。創業以来、魚介専門店としての名を轟かせてきました。それはまさに“狂乱の時代”のただなか。オープン当初からモードを先取りする紳士淑女が、観劇の前後に立ち寄る社交場となっていました。2007年、アラン・デュカスの手に渡りましたが、実はアラン・デュカスはアールデコの信奉者。その旧き良き姿をまもりながら21世紀に生きる上質な魚介専門店としての価値を高めています。
料理人同士が情熱的なディスカッションを展開
セバスチャン 「レッシュ」は、僕が好きなパリのレストランのひとつだよ。1925年、アドリアン・レッシュが創業した店だ。
アヤ 今のシェフの名前もアドリアンというから、面白い偶然ね。
セバスチャン そう、アドリアン・トルイヨ。「ラベイ・ド・ラ・セル」「ル・ルイ・キャーンズ」「ジュール・ヴェルヌ」という、アラン・デュカス傘下のレストランで経験したあとに、この店のシェフを任されたんだ。若いが素晴らしい腕の持ち主さ。
アヤ 魚介専門店としては、歴代の大統領が愛した 「ル・デュック」と並ぶ、とてもパリらしいノーブルな店よね。あまり話題には上らないけれど、常連客をしっかりと掴んでいる、隠れた名店。おすすめできるわ。
セバスチャン 南仏の名料理人ジャック・マキシマンが料理のディレクションを担当していて、アドリアンに料理人としての経験やカルチャーを伝えているのだが、そんな2人の仕事の現場に出会うこともある。自分もそんな情熱的なディスカッションに居合わせたことがあったよ。彼らは鯖の火通しについて話していた。本物の料理のレッスンが繰り広げられていた。
2014.02.16(日)